相続放棄申述書・上申書の書き方講座

この記事を書いた人
弁護士町田北斗

中央大学法科大学院を卒業後、不動産や通信関連企業での勤務を経て、2018年に弁護士登録(東京弁護士会所属)。
離婚、相続、労働紛争、企業法務、事業承継、債権回収などを取り扱う。
ONGマネジメント合同会社を設立し、特に中小企業の事業再生支援や経営コンサルティングに注力しています。

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相続

相続放棄の申述書(そうぞくほうきのしんじゅつしょ)は、家庭裁判所へ提出する重要な書類であり、形式の不備や記載内容の誤りがあると受理されない可能性があるため、正確に作成する必要があります。

申述書の書き方について、必要な項目と注意点を解説します。


1. 📄 申述書の様式と入手先

申述書は、原則として家庭裁判所が定める定型様式を使用します。

  • 入手先:
  • 申立て先: 被相続人(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
  • 申立費用:収入印紙 800円
  • 必要書類:
    【共通】
  • 1. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  • 2. 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
  • 【申述人が,被相続人の配偶者の場合】
  • 3. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 【申述人が,被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)の場合】
  • 3. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 4. 申述人が代襲相続人(孫,ひ孫等)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
    その他の場合はこちらをご参照ください。

2. 📝 申述書の主な記載事項と記入例

申述書には、主に以下の情報を正確に記載する必要があります。

A. 申述人(相続放棄をする人)の情報

項目記載内容注意点
本籍現在の本籍地(戸籍謄本に記載されている住所)。住民票の住所ではないため注意が必要です。
住所現在の住民票上の住所。裁判所からの連絡が届く場所です。
氏名・押印署名し、認印または実印を押印します。実印である必要はありませんが、押印は必須です。
生年月日和暦で記載します。
職業現在の職業を記載します。
被相続人との関係「子」「配偶者」「兄弟姉妹」など、故人との続柄を記載します。

B. 被相続人(故人)の情報

項目記載内容注意点
本籍・最後の住所故人の最後の本籍地と最後の住所を記載します。故人の住民票の除票や戸籍謄本で確認します。
氏名故人の氏名を記載します。
死亡年月日故人の戸籍に記載されている死亡年月日を正確に記載します。

C. 申述の理由と相続開始を知った日(最も重要)

項目記載内容注意点
申述の理由相続放棄をする理由を以下の選択肢から選びます。通常は「被相続人の債務が超過している」を選択します。
相続開始を知った日故人の死亡を知り、自己が相続人になったことを知った日を記載します。この日から3ヶ月以内が期限(熟慮期間)となります。正確な日付を記載してください。
熟慮期間の伸長の有無以前に期間伸長を申し立てている場合のみ記載します。

3. 作成上の注意点🚨

1. 必要書類の確認

申述書だけでなく、被相続人の住民票の除票、戸籍謄本など、申述書に加えて添付すべき書類が多数あります。これらの書類を不備なく揃えることが、受理の鍵となります。

2. 3ヶ月の期限(熟慮期間)

相続開始を知った日から3ヶ月以内という期限は厳格です。この期限を過ぎている場合は、単に申述書を提出するだけでは受理されないため、期限後の特別の理由(負債を知らなかったなど)を記載する**「上申書」**などの別書類が必要になります。

相続放棄の上申書(じょうしんしょ)は、熟慮期間(3ヶ月)を過ぎてしまった後に相続放棄を申し立てる際、**「期限内に放棄できなかったやむを得ない理由」**を家庭裁判所に説明し、申述受理を求めるために提出する重要な書類です。

申述書とは別に作成し、単に「借金を知らなかった」というだけでなく、それがなぜであったのかを客観的に伝える必要があります。

以下に、上申書に含めるべき主な項目と、状況に応じた具体的な記載例を示します。


📄 相続放棄 上申書の記載例とポイント

1. 上申書の基本構成

項目記載内容目的と注意点
タイトル上申書書類の目的を明確にします。
提出先〇〇家庭裁判所 御中申述書を提出する裁判所名を記載します。
日付令和〇年〇月〇日提出日を記載します。
申述人情報氏名、住所、電話番号申述書と同じ情報を記載し、押印します。
被相続人情報故人の氏名故人が誰であるかを特定します。
本文経緯と申述理由を詳細に記述最も重要な部分。以下で詳細に解説します。
結論熟慮期間徒過の事情を斟酌し、相続放棄の申述を受理していただくよう上申する。裁判所に求めたい結論を明確に示します。

2. 【状況別】本文の具体的な記載例

上申書の本文では、「相続開始を知った日(=死亡日)」から「借金の存在を知った日」までの間の経緯を詳細かつ客観的に説明する必要があります。

ケースA:故人と長期間音信不通であった場合

疎遠であったため、財産状況について調査のしようがなかったことを強調します。

上申書

被相続人●●の相続人●●

●月●日付け相続放棄申述における「相続開始を知った日」について、次のとおり上申します。

  1. 被相続人〇〇〇〇は、申述人(〇〇)の実父ですが、申述人が幼少期に両親が離婚し、以降〇〇年間、音信不通の状態にありました。
  2. 被相続人の死亡は親族から知らされましたが、被相続人の自宅所在地や生活状況についても全く知らず、遺産に関する資料も一切受け取っていません。そのため、被相続人にはめぼしい財産はなく、また、負債もないものと信じておりました
  3. 相続財産がないものと信じたことにはやむを得ない理由があるため、熟慮期間内(3ヶ月)に相続放棄の手続きをすることなく、期間が経過してしまいました。
  4. しかし、令和〇年〇月〇日になり、〇〇貸金業者から、被相続人名義の借入金(〇〇〇万円)の督促状が申述人の自宅に突然届きました。
  5. これにより、初めて被相続人に多額の負債があることを知り、急ぎ相続放棄の申述を行うものです。

以上

ケースB:負債の存在を示す通知が遅れて届いた場合(保証債務など)

故人の死後、財産調査をしたが借金が見つからず、後になって債権者からの連絡で初めて負債が発覚したことを強調します。

上申書

被相続人●●の相続人●●

●月●日付け相続放棄申述における「相続開始を知った日」について、次のとおり上申します。

  1. 被相続人〇〇〇〇の死亡後、申述人は、預貯金通帳や保険証券などのめぼしい財産資料を調査しましたが、負債を示す資料は何も発見できませんでした
  2. 被相続人の遺品整理を終え、申述人にて相続財産がないと判断したため、熟慮期間内に相続放棄をすることなく、期間が経過いたしました。
  3. ところが、熟慮期間が経過した後の令和〇年〇月〇日、株式会社〇〇から、被相続人が知人の借入について保証人となっていた旨の保証債務履行請求の書面が届きました。
  4. この保証債務は、被相続人の遺品から発見できなかったものであり、申述人としては、この請求書が届くまで負債の存在を知りませんでした
  5. したがって、負債の存在を知った日を起算点とすれば、まだ熟慮期間内であると解釈されますので、速やかに相続放棄の申述をいたします。

以上


3. 上申書作成の重要ポイント

証拠資料の添付

上申書の内容を裏付ける客観的な証拠を添付することが極めて重要です。
ただし、提出段階ですべてを用意する必要はありません。上申書提出後、担当書記官から、証拠の有無等を指摘された後に提出することもできます。
証拠がないから相続放棄を諦めるという判断はやめましょう!

添付すべき資料目的
債権者からの督促状・請求書**「負債の存在をいつ知ったか」**という日付を客観的に証明します。
故人との疎遠を示す資料故人との長年の住民票(別居期間の証明)など、**「調査が困難だった」**ことを裏付けます。
遺産調査の記録死亡直後に預貯金調査や遺品整理を行ったが、負債資料が見つからなかった事実を証明します。

申述理由の明確化

家庭裁判所が一番知りたいのは、「なぜ3ヶ月という猶予期間を過ぎてしまったのか」という**「正当な理由」です。単に「忙しかった」といった個人的な都合ではなく、「相続財産の客観的な状況が原因で負債を知り得なかった」**という法的な理由を明確に述べる必要があります。

3. 未成年者の申述

相続人が未成年者である場合、親権者が法定代理人として申述を行う必要があります。親権者も共同相続人である場合、特別代理人の選任が必要になります。

未成年者や成年被後見人などがいる場合に、利益相反行為(本人とその法定代理人との間で利害が対立する行為)を行う際、本人を代理するために選任されるのが特別代理人です。

特に相続分野では、親権者(通常は親)と未成年の子が同じ遺産分割協議に参加する場合に、利益相反が生じるため、子のために特別代理人を選任する必要があります。

特別代理人選任の申立てについて、その概要と手続きを解説します。


⚖️ 特別代理人選任の申立ての概要

1. 申立てが必要なケース(利益相反行為)

特別代理人の選任が最も多く必要となるのは、以下の**「利益相反行為」**が生じる場合です。

  • 遺産分割協議: 親権者である親と未成年の子が、同じ被相続人(亡くなった人)の遺産を分割する協議に参加する場合。親は「子の代理人」でありながら、同時に「自身の相続人」でもあり、親が多めに遺産を取得しようとすると、子の利益が害されるため、利益相反となります。
  • 親権者が複数の未成年者を代理する場合: 親権者が異なる未成年者複数の代理人として遺産分割協議に参加する場合も、未成年者同士の間で利害が対立するため、それぞれの子に特別代理人を立てる必要があります。

【代表例】
未成年がいる夫婦の一方が死亡した場合
→配偶者と未成年の子の利益が相反するため、特別代理人の選任が必要
→子が複数いる場合には、それぞれの特別代理人選任が必要(兼任も可)

2. 申立て先と申立人

項目詳細
申立て先未成年者(本人)の住所地を管轄する家庭裁判所
申立人親権者(親)、利害関係人(他の相続人など)、または検察官

3. 特別代理人選任申立ての手続きと必要書類

申立てには、裁判所が定める様式を用い、以下の書類を提出する必要があります。

A. 申立てに必要な主な書類
  1. 特別代理人選任申立書:
    • 申立の趣旨(何のために特別代理人が必要か)。
    • 特別代理人の候補者の氏名、職業、住所、被相続人との関係などを記載。
    • 利益相反行為の具体的な内容(例:遺産分割協議のため)。
  2. 利益相反行為に関する資料:
    • 遺産分割協議書の案(または、協議の内容を具体的に示す書面)。
  3. 未成年者(本人)の戸籍謄本
  4. 親権者(法定代理人)の戸籍謄本
  5. 被相続人(故人)の戸籍謄本(相続が発生していることを示すため)
  6. 特別代理人候補者の住民票
  7. 特別代理人候補者の同意書(候補者が特別代理人になることに同意していることの証明)
B. 費用
  • 収入印紙: 申立人1名につき800円(手数料)。
  • 郵便切手: 裁判所との連絡用(金額は管轄裁判所によって異なる)。
C. 申立て後の流れ
  1. 申立て受理: 家庭裁判所が書類を受理します。
  2. 裁判所による調査: 裁判所は、申立内容、特に特別代理人候補者が適任か子の利益が害されないかを調査します。
  3. 審判の確定: 裁判所が特別代理人を選任する審判を出します。候補者が不適当と判断された場合、候補者以外から選任されることもあります。

【弁護士の助言】

特別代理人には、利害関係のない親族などを候補者とすることが多いですが、候補者がいない場合は、弁護士を候補者とすることも可能です。弁護士が特別代理人となることで、遺産分割協議を子の利益を最大限に確保する形でスムーズに進めることができます。

弁護士が特別代理人となった場合に支払う報酬(20~100万円程度)

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