親の認知症が「制限能力者」と判断されたら?成年後見制度の3つの分類と手続きの流れ

この記事を書いた人
弁護士町田北斗

紛争を未然に防ぐのが最善の解決策。
法的リテラシーを高める情報を発信し、法律(LAW)を正しくつかい、あなたの事業と生活(LIFE)を導く羅針盤となります。
2018年 弁護士登録(東京弁護士会)

弁護士町田北斗をフォローする
弁護士による「親の認知症」と「制限能力者」の判断後の対応解説記事のアイキャッチ。成年後見制度の「3つの分類(後見・保佐・補助)」と「手続きの流れ」を分かりやすく図解し、制度によって親が守られる安心感を表現したイラスト。 相続
この記事は約10分で読めます。

相続や財産管理の現場で最も多いトラブルの一つが、ご家族が認知症になったことによる「手続きの停止」です。ご自身の親が認知症と診断されたとき、それが法律上どのような意味を持つのか、正確に理解しておくことが重要です。

【記事のポイント】
認知症は法律用語ではありません。
認知症の進行度に応じて、利用できる制度(補助・保佐・成年後見)が異なります。
判断基準や具体例を理解しておくことが重要です。

「認知症」とは、医学的・身体的な状態を示します。
「制限能力者」とは、身体的な判断能力に基づいて法律により分類されます。
 ▶両者は、同じ意味合いで使用されることがありますが、似て非なる概念です。

制限能力者定義(判断能力の状態)保護者単独行為の制限
①成年被後見人精神上の障害により、判断能力を常に欠く状態にある者。成年後見人全ての法律行為が原則として取り消し可能。保護者が代理する。
②被保佐人判断能力が著しく不十分な者。保佐人重要な法律行為には、保佐人の同意が必要。
③被補助人判断能力が不十分な者。補助人特定の法律行為についてのみ、補助人の同意が必要。

制限能力者と認定される前であっても、法律行為を行ったときにすでに判断能力が不十分であったと証明することができれば、過去の法律行為を無効にすることは可能です。ただし、その立証は非常に難しいケースが多いです。
そのため、判断能力に少しでも不安を感じたら、各種制度を活用することで、本人の財産を安全に管理することができます。


1. 認知症(医学的・身体的状態)とは

定義

認知症とは、脳の病気や障害などによって、一度獲得した知的機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態を指します。
これらの医学的レベルは、治療方針の決定や介護保険の申請、そして法律上の「制限能力者」の判断を下す際の重要な根拠となります。


🔬 認知症の医学的な進行度:CDRスケール

CDR(Clinical Dementia Rating:臨床認知症尺度)は、記憶や見当識、社会生活への適応能力など6つの項目を評価し、認知症の進行度を5段階で分類する国際的に標準化された評価尺度です。

1. CDRの評価項目

以下の6つの分野における障害の程度を評価し、総合的なレベルを決定します。

  1. 記憶
  2. 見当識(時間や場所の把握)
  3. 判断力と問題解決能力
  4. 社会的な活動(趣味、仕事、対人関係)
  5. 家庭内の状況と趣味
  6. 身辺の介護(着替え、入浴、食事など)

2. CDRによる5段階のレベル分類

CDR値レベルの名称症状の目安と法的関連性
CDR 0認知症なし記憶障害なし。全ての日常生活、社会生活が正常に行える。
CDR 0.5MCI(軽度認知障害) または 認知症疑い軽度の記憶障害があるが、日常生活に大きな支障はない。生前対策(家族信託など)の最適な開始時期
CDR 1軽度認知症日常生活に軽度の支障。仕事や社会活動が困難になる。**法律上の「補助」または「保佐」**の検討開始。
CDR 2中等度認知症日常生活を一人で行うことが困難になり、身辺の監視が必要になる。**法律上の「保佐」または「後見」**の検討開始。
CDR 3重度認知症判断能力が著しく低下し、完全に介助が必要。家庭内での活動も困難。**法律上の「後見」**の検討段階。

💡 CDRレベル別の具体例(評価基準)

特に、法律行為の可否財産管理の能力に直結する記憶判断力身辺の介護の領域について、CDRレベルごとの具体的な評価基準の例を以下に示します。

CDRレベル記憶判断力と問題解決能力 身辺の介護
0.5 (疑い/MCI)軽度の物忘れがあるが、重要な出来事は覚えている。日常生活のヒントがあれば思い出す。日常の金銭管理や問題解決は可能だが、複雑なことに困難を感じる。全く問題なく自立している。
1 (軽度認知症)新しいことを学ぶ能力が低下し、最近の重要な出来事を完全に忘れる。記憶障害が日常生活に影響を及ぼす。金銭管理や計画立てに明らかな困難が生じる。社会的な問題解決は困難。全く問題なく自立している(着替え、食事など)。
2 (中等度認知症)過去の出来事も相当程度忘れる。見当識の低下が顕著になる(日付、場所など)。複雑な問題解決は不可能。簡単な金銭管理も困難で、外部の助けが必要。入浴や着替えで部分的な助けが必要になることがある。
3 (重度認知症)記憶障害が甚大。ほとんど新しい情報が保持されない。人物の見分けも困難になる。判断力はほぼ消失。問題解決能力は皆無。完全に他者の指示と介助が必要。常に介助が必要となる(食事、排泄など)。

🔍 評価のポイント

CDRは、単なる検査結果ではなく、医師が情報提供者や本人の面接を通じて、「日常生活における実際の機能の低下」を総合的に評価することに重きを置いています。


これらの医学的な評価は、医師が診断書として作成し、家庭裁判所が**法定後見制度の必要性(被後見人、被保佐人などの判断)**を決定する際の重要な判断材料となります。


2. 制限能力者(法律上の分類)

制限能力者とは、自力で完全に法律行為を行う能力が不十分であると、民法(成年後見制度)によって定められた人々の総称です。

制限能力者は、その精神上の障害の程度によって、以下の3つに分類されます。

成年後見制度による分類(制限能力者)

分類法定名称精神上の障害の程度法律行為の能力支援者
重度被後見人(ひこうけんにん)常に判断能力を欠く状態にある。原則として全ての法律行為が取消可能成年後見人
中度被保佐人(ひほさにん)判断能力が著しく不十分である。重要な法律行為(不動産売却など)は同意が必要保佐人
軽度被補助人(ひほじょにん)判断能力が不十分である。特定の法律行為のみ同意が必要補助人

⚖️ CDRスコアと制限能力者(成年後見制度)の目安

CDRスコアと制限能力者(成年後見制度の分類)の対応は、単純なものではなく、家庭裁判所の総合的な判断によって決定されますが、一般的な目安は以下の通りです。

CDRスコアは医学的な進行度を示すもので、裁判所はこれを重要な証拠としつつ、日常生活への支障度やご本人の意思を考慮して、**法律上の分類(被後見人、被保佐人、被補助人)**を決定します。


CDRスコア認知症のレベル(医学的)法律上の分類(制限能力者)の目安支援者の種類
CDR 0.5軽度認知障害(MCI)疑い**被補助人(軽度)**の検討開始補助人
CDR 1軽度認知症**被保佐人(中度)**の検討開始保佐人
CDR 2中等度認知症被後見人(重度)または被保佐人成年後見人 または 保佐人
CDR 3重度認知症**被後見人(重度)**に該当する可能性が高い成年後見人

🚨 法律上の判断が分かれるポイント

家庭裁判所が「制限能力者」の分類を判断する際に、CDRスコア以外に特に重視する点は、ご本人の**「法律行為に対する理解度」**です。

1. 被補助人(CDR 0.5~1.0が目安)

判断能力は「不十分」な状態です。

  • 特徴: 日常生活のほとんどは自力で可能だが、特定の重要な法律行為(不動産の売買契約、大規模な修繕契約など)を行う際に、援助や同意が必要と判断されるレベルです。
  • CDR 0.5(MCI)の段階でも、財産管理を任せる契約の理解が難しいと判断されれば、補助開始の可能性があります。

2. 被保佐人(CDR 1.0~2.0が目安)

判断能力が「著しく不十分」な状態です。

  • 特徴: 日常生活に必要な簡単な買い物などは単独で可能だが、重要な財産行為(不動産の売却、遺産分割協議への参加、多額の借金など)については、常に保佐人の同意が必要と判断されるレベルです。

3. 被後見人(CDR 2.0~3.0が目安)

判断能力が「常に欠く」状態です。

  • 特徴: 自分の財産や行為の結果について理解する能力が常になく、日常生活の援助も常に必要と判断されるレベルです。
  • 被後見人と認定されると、遺言書作成や遺産分割協議など、本人による全ての法律行為が原則として無効となります。このレベルでは、CDR 2.0以上である可能性が非常に高くなります。

そのため、ご本人がCDR 1.0CDR 2.0の境界線上にいる場合、医師の診断書だけでなく、生活状況報告書財産状況なども含め、総合的な判断が下されることになります。

🏛️ 成年後見制度(後見・保佐・補助)の手続き

成年後見制度の開始にはすべて家庭裁判所への「審判の申立て」が必要です。

🔹 ステップ1:家庭裁判所への申立て

  1. 申立先:本人の住所地を管轄する家庭裁判所。
  2. 申立人:本人、配偶者、四親等内の親族、検察官など。
  3. 申立ての際、必要な主な書類
    • 申立書、戸籍謄本、住民票、財産目録
    • 診断書(精神上の障害の程度を証明するもの。医師による作成が必要)
    • 申立事情説明書

【選任申立書記載例】出展元:裁判所公式ウェブサイト

選任申立に必要な費用の内訳】

費用内訳金額(目安)概要と注意点
1. 収入印紙代(申立手数料)800円申立書に貼付する手数料です。
2. 郵便切手代(連絡費)数千円程度裁判所が申立人、候補者、利害関係人などと連絡を取るために使用します。内訳は裁判所により異なります(例:3,000円~5,000円)。
3. 診断書・鑑定費用数千円~10万円程度成年後見制度の申立時、医師の診断書作成費用(約5千円~1万円)が必要です。本人の判断能力の程度について裁判所が鑑定を命じた場合、**鑑定費用(5万円~10万円以上)**が発生します。
4. 予納金(専門家を選任する場合)数十万円~100万円以上選任される保護者(管理人)の報酬や、管理業務に必要な費用に充てるため、申立人が裁判所に事前に納める保証金です。不在者財産管理や財産が多額の場合、高額になる傾向があります。
5. 登記費用(後見制度の場合)数千円程度成年後見制度の場合、後見等開始の審判内容を法務局に登記するための費用(収入印紙)です。

🔹 ステップ2:調査・鑑定・審理

  1. 調査:家庭裁判所調査官が、本人の生活状況、親族関係、財産状況などを調査し、申立ての必要性保護者候補者の適格性を確認します。
  2. 鑑定:原則として、医師による鑑定が行われます。これは、本人の判断能力がどの程度失われているかを医学的に判断し、後見・保佐・補助のいずれを適用すべきかを決定するための最も重要な資料となります。
  3. 審理:裁判官が、提出されたすべての資料に基づき審理を行います。

🔹ステップ3:後見人(保護者)の選任

家庭裁判所は、本人の判断能力の程度に応じて審判を下し、保護者を選任します。

種類定義(判断能力の状態)保護者(専門家が選任されることが多い)権限の範囲
成年被後見人精神上の障害により、判断能力を常に欠く状態にある者。成年後見人財産に関する全ての法律行為について代理権を持つ。本人が単独で行った法律行為は、日常行為を除きすべて取り消し可能
被保佐人判断能力が著しく不十分な者。保佐人重要な財産上の行為(不動産売買、訴訟行為、借金など)について、本人の同意がない場合に取り消すことができる。 代理権は、裁判所の審判によって特定の行為についてのみ付与される。
被補助人判断能力が不十分な者。補助人家庭裁判所が定めた特定の法律行為についてのみ、同意権または取消権、代理権を持つ。

🔹 ステップ4:法務局への登記

審判が確定すると、その内容は法務局の登記簿に登記されます。この登記により、第三者に対し「この人物は制限能力者である」と主張(対抗)できるようになります。この登記は、戸籍謄本には記載されません。


補足:任意後見制度との違い

上記の成年後見制度は、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が強制的に開始するのに対し、任意後見制度は、本人の判断能力があるうちに、将来に備えて公証役場で任意後見契約を結んでおく制度です。

標準的な流れと期間

手続きの段階期間の目安概要
申立て0日目申立書を家庭裁判所に提出
調査・面談申立て後 1~2カ月裁判所調査官による本人・申立人・候補者への状況確認、意向確認
医師による鑑定調査後 2〜3ヶ月裁判所が必要と判断した場合に実施(最も時間を要する要因)
審判・登記鑑定終了後 2〜4週間裁判所による保護者選任の決定、法務局への登記手続き
合計期間3ヶ月 〜 6ヶ月程度鑑定がない場合は短縮、鑑定や紛争がある場合は長期化

💡 弁護士が指摘する最も重要な点

認知症の方は、上記の被後見人、被保佐人、被補助人のいずれかに認定されることによって、「制限能力者」という法的な地位を得ます。

  • 被後見人と認定された場合、その者は意思能力がないと見なされます。認定前後に近接したときに作成された遺言書や、参加した遺産分割協議は無効となります。
  • この状態になると、ご本人の財産を守るため、ご家族などからの申立てにより、家庭裁判所が後見人を選任し、財産管理を行います。

🚨 弁護士へのご相談:手遅れになる前の予防策

この制限能力者の存在と、それに伴う法的な不利益を回避するためには、ご本人が判断能力を失う前生前対策が極めて重要です。

  • 財産管理の柔軟性確保: 家族信託(資産運用や承継を柔軟に行う)
  • 身上監護の選択: 任意後見契約(将来の支援者と支援内容をご自身で選ぶ)

ご家族の認知症の兆候が見られ始めたら、**法的な対策を行うための「時間との勝負」**が始まっています。財産が凍結し、手続きが無効になる前に、専門家にご相談ください。

タイトルとURLをコピーしました