【弁護士解説】死後事務委任契約とは?遺言や成年後見との違い・メリットを詳解
「自分が亡くなった後の葬儀はどうなるのだろう?」
「頼れる親族が近くにおらず、死後の手続きをしてくれる人がいない」
このような不安をお持ちの方にとって、非常に有効な法的手段が**「死後事務委任契約」**です。
遺言書だけではカバーしきれない「死後の諸手続き」をスムーズに行うためのこの契約について、弁護士がわかりやすく解説します。
1. 死後事務委任契約とは何か?
死後事務委任契約(しごじむいにんけいやく)とは、自分が亡くなった後の様々な事務手続き(葬儀、埋葬、行政手続き、未払い金の精算など)を、生前のうちに第三者(弁護士など)に依頼しておく契約のことです。
なぜこの契約が必要なのか?
死亡事務委任契約がない場合、葬儀や役所手続はすべて遺族の重い負担となります。
死後事務を行う親族は、葬儀・火葬の手配に加え、役所への死亡届や保険証返還など、平日の日中に窓口へ出向く必要があります。銀行口座は凍結されるため、葬儀代や未払いの医療費、家賃等を一時的に自己資金で立て替えることになります。さらに、遺品整理として家具や日用品の分別・廃棄、住居の解約・明渡し業務も発生し、これらの処理がすべて完了するまでには、数ヶ月の期間と多大な労力を要するのが現実です。
疎遠な親族がいきなり対応を迫られ、大きなトラブルになることも少なくありません。
また、頼れる親族がいなければ、自治体が最低限の火葬を行うのみです。希望する供養は叶わず、遺骨は引き取り手のないまま「無縁仏」として合祀されます。家財処分や費用の清算も宙に浮き、ご自身の尊厳が守られない寂しい最期となるリスクがあります。
お願いするのが親族や友人知人であれば、無報酬でも良いですが、委任事務の履行は煩雑な事務もあるため、報酬を先払いしておくことも一般的です。
報酬相場:5~20万円前後 ※依頼する事務内容により変動します。
2. 「遺言」や「成年後見」との決定的な違い
多くの方が混同しやすいのが、「遺言」や「成年後見制度」との違いです。これらは役割が明確に異なります。
| 制度・契約 | 効力の発生時期 | 主な役割・できること | できないこと(苦手なこと) |
| 死後事務委任契約 | 死亡時 | 葬儀、納骨、役所手続、遺品整理、費用の支払い | 財産の分配(相続)、生前の財産管理 |
| 遺言 | 死亡後 | 財産の分配方法の指定(誰に何を渡すか) | 葬儀や事務手続きの強制力はない(付言事項に書けるのみ) |
| 成年後見 | 生前(判断能力低下後) | 生前の財産管理、身上監護 | 死後の事務全般(※一部例外を除くが権限は限定的) |
【ポイント】
・遺言は「財産をどう分けるか」には強いですが、「葬儀をどうするか」「部屋をどう片付けるか」について法的な強制力を持たせることができません。
・成年後見人の仕事は、ご本人が亡くなった時点で原則終了します。
つまり、「亡くなった直後から遺産分割までの空白期間」の手続きを埋めるのが、死後事務委任契約なのです。
3. 具体的に何を依頼できるのか?
死後事務委任契約では、以下のような内容を具体的に定めて依頼します。
- 関係者への連絡
- 親族、知人、勤務先などへの死亡通知。
- 葬儀・埋葬に関する事務
- 喪主の引き受け。
- 葬儀業者との打ち合わせ、希望するスタイル(直葬、家族葬など)の実行。
- 納骨、永代供養の手続き。
- 行政官庁等への届出
- 死亡届の提出、戸籍関係の手続き。
- 年金受給停止の手続き、介護保険資格喪失届など。
- 債務の弁済・費用の支払い
- 入院費、施設利用料の未払い分の精算。
- 公共料金、家賃、クレジットカードの解約と精算。
- 生活用品の処分(遺品整理)
- 賃貸物件の退去手続き、敷金の精算。
- 家財道具の処分、デジタル遺品(PCやSNSアカウント)の消去・解約。
4. この契約を利用すべき人(メリットがある人)
特に以下のような状況にある方にとって、死後事務委任契約は大きなメリットがあります。
- おひとりさま(身寄りのない方)
- 死後の手続きをしてくれる人が誰もいない場合。
- 親族とは疎遠・不仲である
- 親族はいるが関わりたくない、あるいは迷惑をかけたくない場合。
- 親族が高齢・遠方である
- 子供がいるが海外に住んでいる、兄弟が高齢で動けない場合。
- 自分の希望する葬儀・供養を確実に実現したい
- 「散骨してほしい」「無宗教で送ってほしい」などの強い希望がある場合。
5. 契約の流れ(契約書の作成と指示内容の明確化)
契約の方法
トラブルを防ぎ、手続きを確実にするため、**「公正証書」**で作成することを強くお勧めします。
金融機関や役所によっては、私文書(普通の契約書)では権限を認めないケースがあるためです。
【死亡事務委任契約書の記載例】
死後事務委任契約「事務内容指示書」整理表
以下は、死後事務委任契約を結ぶ際に、具体的に決めておくべき項目のチェックリスト兼記載例です。
すべての項目を埋める必要はありません。「どうしてもこれだけはこだわりたい」という項目(例えばペットのことや、散骨の希望など)だけでも明確にしておくと、残された方々の負担が大幅に減ります。
| 分類 | 具体的な検討項目 | 指示内容の記載例 |
| 1. 関係者への連絡 | 連絡する範囲 | 親族(○親等まで)、友人(名簿指定)、勤務先、近隣住民 |
| 連絡手段・優先順位 | まず長男へ電話。友人はLINEグループで一斉通知など | |
| 連絡先リスト | 氏名、電話番号、関係性を記載した別紙リストを参照 | |
| 2. 葬儀・告別式 | 葬儀の規模・形式 | 家族葬(30名程度)、直葬(火葬のみ)、一般葬、社葬 予算 |
| 宗教・宗派 | 仏式(〇〇宗)、神式、キリスト教式、無宗教(自由葬) | |
| 依頼する葬儀社 | 生前予約済みの「〇〇葬祭」を利用(会員No.xxxx) | |
| 喪主・遺影 | 弁護士に喪主代行を依頼、写真はPCのデスクトップに保存済み | |
| 3. 納骨・埋葬 | 納骨場所 | 〇〇霊園(使用者名義:〇〇)、海への散骨、樹木葬 |
| 納骨の時期 | 四十九日法要の際、火葬後すぐ、一周忌までなど | |
| 永代供養 | 三十三回忌で弔い上げとし、合祀墓へ移動する | |
| 4. 住居・遺品整理 | 賃貸物件の解約 | 死後2ヶ月以内に解約し、敷金精算を行う |
| 家財道具の処分 | 専門業者へ依頼し全撤去。費用は預託金から支出 | |
| 形見分け(特定の遺品) | アルバムと貴金属のみ長女へ送付(それ以外は処分) | |
| ペットの処遇 | 老犬ホーム「〇〇」へ引き継ぐ(契約済み) | |
| 5. デジタル・契約 | SNS・WEBサービス | Facebookは追悼アカウントへ、X(Twitter)は削除 |
| サブスク・会員権 | 動画配信サービス、スポーツジム等の解約 | |
| ID・パスワード管理 | エンディングノート別冊の封筒(封印)に記載あり | |
| 6. 公共手続き等 | 役所手続き | 死亡届、年金受給停止、健康保険・介護保険の資格喪失届 |
| インフラ・支払い | 電気・ガス・水道・携帯電話・カードの解約と未払い精算 |
事務費用の預託
死後の手続きにはお金がかかります(葬儀代、病院への支払い、片付け費用など)。
これらの費用は、契約時にあらかじめ概算し、**「預託金」**として受任者(弁護士等)に預けておくか、信託口座等で管理する方法が一般的です。
これにより、死後すぐに資金が凍結されて支払いができないという事態を防ぎます。
事務費用を預託するため、信頼性が高い人物や事業者に依頼する必要があります。
【要注意】死後事務委任契約でよくある4つの失敗ケース
「契約書さえ作っておけば安心」と思っていませんか?
実は、作り方が甘かったり、運用の準備が不足していたりすると、いざという時に契約が役に立たない(実行できない)という事態が起こり得ます。
ケース1:手書きの契約書(私文書)で、銀行や役所に断られた!
状況: 費用を節約するため、自分で調べたひな型を使い、友人と判子を押し合って「契約書」を作成していたAさん。 Aさんの死後、友人がその契約書を持って銀行へ行き、葬儀費用の引き出しをしようとしましたが…。
結末: 銀行窓口で**「この契約書ではご本人の意思確認ができません。相続人全員の印鑑証明を持ってきてください」**と断られてしまいました。 結局、友人は自分のポケットマネーで葬儀を出し、後日、Aさんの疎遠だった親族と費用返還の交渉をする羽目になり、大変な苦労をしました。
【弁護士の解説】
最も多い失敗です。
死後の手続きにおいて、銀行や役所は非常に慎重です。
「本当に本人が書いたのか?」「脅されて書かされたのではないか?」が証明できない私文書(普通の契約書)では、権限を認めてくれないケースが多々あります。
対策: 第三者(公証人)が意思確認をして作成する**「公正証書」**にすることが、スムーズな手続きの絶対条件です。
ケース2:預けたお金が足りず、葬儀が出せない!
状況: 質素な直葬を希望し、50万円を受任者に預けていたBさん。 しかし、亡くなったのが賃貸マンションで、発見が遅れてしまいました。
結末: 死亡の発見が遅れたため、特殊清掃が必要となり、その費用だけで30万円が発生。さらに未払いの家賃や退去費用がかさみ、葬儀費用に充てるはずのお金がなくなってしまいました。 受任者も自腹を切るわけにはいかず、最低限の行政手続きしかできず、希望していた散骨は叶いませんでした。
【弁護士の解説】
「葬儀代」だけで予算を組みがちですが、実際には「病院への未払い金」「家賃」「部屋の片付け費用(これが高額になりがち)」などが必要です。
対策: 契約時に弁護士としっかりと試算(シミュレーション)を行い、**余裕を持った金額(予備費)**を預託しておく必要があります。
ケース3:契約書が見つからず、無縁仏扱いに…
状況: 弁護士と死後事務委任契約を結び、契約書を自宅の金庫に大切にしまっていたCさん。 しかし、急病で孤独死してしまい、誰にも連絡がいきませんでした。
結末: 警察や行政が介入しましたが、契約書の存在に気づかず、親族も引き取りを拒否。 結局、「行旅死亡人(身元不明や引き取り手のない死者)」として自治体によって火葬・埋葬されてしまいました。 弁護士が連絡を受けたのは、全てが終わった数ヶ月後でした。
【弁護士の解説】
契約書があっても、「亡くなったこと」を受任者(弁護士)が知らなければ動けません。
対策: 定期的に連絡を取り合う「見守り契約」をセットにするか、信頼できる知人や民生委員、アパートの管理人に「何かあったらこの弁護士カードへ連絡を」と伝えておくことが必要です。
ケース4:親族が突然現れて、契約内容をひっくり返された
状況: 「親族とは不仲なので、連絡もしないでほしい。遺骨は海に撒いてほしい」と契約していたDさん。 しかし死後、連絡を受けた(警察等から知らされた)兄が突然現れました。
結末: 兄が「海に撒くなんてとんでもない!先祖代々の墓に入れる!」と激怒し、遺体を引き取って連れて行ってしまいました。 契約上の受任者である弁護士も、法律上の親族である兄が強硬に反対して遺体を管理下に置くと、事実上それを取り返すことは困難です。
【弁護士の解説】
法的には契約が有効でも、葬送の現場では「ご遺族の感情」が優先されがちです。
対策: トラブルが予想される場合は、遺言書の「付言事項」に強い希望を書いておく、あるいは生前のうちに弁護士から親族へ通知を送り、理解を得ておく(または牽制しておく)等の対策が必要です。
6. 弁護士に依頼するメリット
死後事務は、親族以外の第三者(友人など)に頼むことも可能ですが、弁護士に依頼することで以下の安心が得られます。
- 確実な執行能力: 法律のプロとして、役所や業者との折衝をスムーズに行います。
- 財産管理の透明性: 預託金の管理や支出の明細について、厳格な規律のもと業務を行います。
- 遺言作成とのセット対応: 「財産は遺言」で、「手続きは死後事務委任」で、とワンストップで解決できます。
まとめ
「死後のことは誰かがやってくれるだろう」と楽観視していると、いざという時に誰も動けず、ご自身の尊厳が守られないまま無縁仏として扱われてしまうリスクもあります。
ご自身の最期をきれいに締めくくり、立つ鳥跡を濁さず旅立つために、死後事務委任契約は非常に有効な選択肢です。

