【弁護士解説】裁判の勝敗を分ける「争点整理」とは?本人訴訟で陥りやすい3つの落とし穴

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弁護士町田北斗

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【弁護士解説】裁判の勝敗を分ける「争点整理」とは?本人訴訟で陥りやすい3つの落とし穴|法的論点を整理・分析する弁護士と、手続きや主張の迷路で困惑する本人訴訟の当事者を描いたイラスト 本人訴訟
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「裁判を起こしたい(起こされた)」という時、多くの方が法廷での「証人尋問」や「判決」のシーンをイメージされるかもしれません。

しかし、実際の民事訴訟において、勝敗の行方を決定づける最も重要なプロセスは、その前段階に行われる**「争点整理(そうてんせいり)」**にあります。

今回は、一般の方には馴染みの薄いこの手続きの重要性と、弁護士をつけずに自分で行う(本人訴訟)際のリスクについて解説します。

1. そもそも「争点整理」とは何か?

この画像の代替テキスト(altテキスト)として、以下をご提案します。

雑多な書類が整理・選別され、整った青焼きの設計図が作成される過程を示すイラスト。下部に「争点整理=裁判の設計図」というテキストがある。

争点整理とは、一言で言えば**「裁判の『勝敗を決めるポイント』を絞り込む作業」**のことです。

【実務メモ】
実際の裁判では、第一回口頭弁論後に、弁論準備手続という手続の中で争点が整理されることになります。
争点を整理するのは裁判所が主導するため、当事者は、自己に有利な主張と証拠を適宜提出していけば問題ありません。不明瞭な点があれば、裁判所から指摘があるため、これに応じていくことになります。

裁判が始まると、原告と被告がお互いの主張を書面で出し合います。しかし、双方の言い分がすべて食い違うわけではありませんし、すべての主張が法律的に意味を持つわけでもありません。

そこで裁判所は、当事者から主張された事実を、以下の2つを仕分けます。

  1. 争いのない事実: お互いが認めており、証拠調べをする必要がない事実
  2. 争いのある事実(争点): お互いの意見が食い違っており、かつ判決に影響するため、証拠で白黒つけるべき事実

勝敗を決する重要な事実のみを選別して、当該事実の有無を尋問手続きで判断することになります。

散らかった部屋を片付ける作業

例えるなら、争点整理は「散らかった部屋から、本当に必要なものだけを残して整理整頓する作業」です。 この整理が終わって初めて、「どの部分について証人尋問を行うか」「どの証拠を採用するか」が決まります。つまり、争点整理は裁判の「設計図」を作る段階と言えます。

本人訴訟で「争点整理」を行う際の注意点3つ

弁護士をつけず本人訴訟を行う場合、この争点整理の段階で失敗してしまうケースが後を絶ちません。法的な知識がないまま進めることで陥りやすい、代表的な3つの落とし穴をご紹介します。

① 「関係のない事実」を主張しすぎてしまう

最も多いのが、**「あったことを全て聞いてほしい」**という日記のような主張をしてしまうケースです。

裁判官が知りたいのは、「法律上の要件(要件事実)を満たしているか」だけです。
例えば、お金を返してほしい裁判であれば、「いつ、いくら貸し、いつ返す約束をしたか」が重要です。「相手がいかに不誠実な態度をとったか」といった事情は、法的な勝敗には直接関係しないことが多いのです。

関係のない事実を大量に書いてしまうと、本当に重要な主張が埋もれてしまい、裁判官に伝わらないというリスクがあります。

端的に事実のみを主張する態度が好印象を与えます。

② 知らないうちに「不利な自白」をしてしまう

相手方の主張に対して「それは事実です」と認めることを「自白」といいます。 裁判のルール上、一度「自白」した事実は、あとから「やっぱり勘違いでした」と撤回することが原則としてできません。
よく覚えていないことや確証がないことは、「覚えていない。」で問題ありません。これで否認したことになるため、相手は、その事実を証明しなければなりません。

③ 感情的な主張で心証を悪くする

「絶対に許せない」「相手は嘘つきだ」といった感情的な言葉を連ねても、裁判所は動いてくれません。
むしろ、争点整理の段階で感情論ばかりを繰り返すと、「法的な議論ができない」「手続きを遅らせている」と判断され、裁判官の心証を悪くする可能性があります。

争点整理の失敗は、あとから取り返せない

恐ろしいのは、**「争点整理が終わったあとで、新しい主張や証拠を出すことは厳しく制限される」**という点です(時機に後れた攻撃防御方法の却下)。

「設計図」が完成し、いざ家を建て始めてから「やっぱり土台を変えたい」と言っても認められないのと同じです。この段階でのミスは、その後の証人尋問などでどんなに頑張っても挽回できないことが多いのです。

事例:貸金返還請求訴訟(お金の貸し借り)

最もシンプルな「お金を返して」という裁判を例に見てみましょう。
原告Aさんが「被告Bさんに100万円を貸したが、返してくれない」と訴えた場合です。

Bの反論①【否認】「そもそも借りていない」

Bさんが「お金が振り込まれたのは事実だが、あれは『もらった(贈与)』ものだ」と主張した場合。

当事者主張内容争点(裁判所が判断すべきこと)
原告A「貸した(返済の合意があった)」<争点>
お金の交付が「貸借」だったのか「贈与」だったのか?
被告B(否認)「もらった(贈与された)」
  • ここでの活動: 借用書(金銭消費貸借契約書)があるか、「貸して」、「返さなくてよい」というやり取りがあるか、という証拠が重要になります。

Bさんの反論②:【抗弁1】「借りたが、もう返した」

Bさんが「借りたことは認める(自白)。しかし、先月現金で全額返したはずだ」と主張した場合。

当事者主張内容争点(裁判所が判断すべきこと)
原告A「貸した」(争いなし=証拠不要)
被告B(自白)「借りたことは認める」
被告B(抗弁)「しかし、既に弁済した」<争点>
弁済の事実はあったか?
原告A(抗弁の否認)「受け取っていない」
  • ここでの活動: 「貸したかどうか」はもう審理しません。
    「返済の事実の有無」という一点に絞られます。Bさんが領収証や振込履歴を出せるかどうかが勝負になります。

Bさんの反論③:【抗弁2】「もう返した。また時効が完成している。」

Bさんが「借りたことは認める(自白)。しかし、先月現金で全額返したはずだ。加えて、すでに時効が完成していて、返済する義務はない」と主張した場合。

当事者主張内容争点(裁判所が判断すべきこと)
原告A「貸した」(争いなし=証拠不要)
被告B(自白)「借りたことは認める」
被告B(抗弁①)「しかし、既に弁済した」<争点>
弁済の事実はあったか?
原告A(抗弁の否認)「受け取っていない」
被告B(抗弁②)借りた時から5年が経過しており、時効が完成している。時効の完成の有無
  • ここでの活動: 時効が完成しているかどうかが審理のポイントになります。具体的には、時効を中断する事実(更新事由 民法147条等)があったかどうかが争点になります。

このように、相手がどの事実を認め、どの事実を争うかによって、提出すべき証拠が全く異なるのがお分かりいただけるかと思います。

まとめ

本人訴訟は費用を抑えられるメリットがありますが、争点整理のような専門的な手続きにおいては、高いリスクを伴います。

すべてを弁護士に依頼することが難しい場合でも、**「主張書面を提出する前のリーガルチェック」「争点の洗い出し」**だけを弁護士に相談することは可能です。

ご自身の主張が法的に正しく整理されているか、不利な自白をしていないか。 取り返しがつかなくなる前に、一度専門家の視点を入れることを強くお勧めします。

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