いよいよ裁判も終盤(結審)に差し掛かると、裁判官から**「和解」**の打診を受けることが多々あります。ここで多くの本人訴訟の方が悩みます。
- 「ここまで戦ったのだから、白黒はっきり判決をもらうべきか?」
- 「裁判官が勧めるなら、和解に応じたほうがいいのか?」
この判断を誤ると、勝てるはずの勝負で不利になったり、逆に泥沼の控訴審へともつれ込んだりする可能性があります。
今回は、本人訴訟の最終局面における**「和解と判決のメリット・デメリット」と、「後悔しないための判断基準」**について、弁護士の視点から解説します。
1. 裁判官の「心証(しんしょう)」を読み解く
最終局面で最も重要なのは、**「裁判官が今、どちらを勝たせようと思っているか(心証)」**を読み取ることです。
裁判官が和解を勧めるタイミングは、多くの場合、証人尋問が終わった直後や、主要な争点が整理された段階です。ここで裁判官が発する言葉には大きなヒントが隠されています。
- 「原告(あなた)の主張も分かりますが、立証のハードルは高いですよ」
- → 【危険信号】 あなたが負ける可能性が高い、あるいは全額は認められない可能性を示唆しています。「少しでも取れるうちに和解した方が得」というメッセージかもしれません。
- 「被告にとっても、判決で記録に残るのはリスクではありませんか?」
- → 【有利信号】 あなた(原告)が勝つ見込みが高いです。相手方に「負け判決が出る前に、任意の支払いで終わらせては?」と促しています。
弁護士のアドバイス
裁判官の和解勧告は、単なる「話し合いの勧め」ではなく、**「判決の予告編」**であることが多いです。感情的にならず、裁判官が「どちらに譲歩を求めているか」を冷静に分析してください。
2. 「和解」で終わらせるメリット・デメリット
「和解」とは、お互いが譲歩して紛争を解決することです。
「勝ち・負け」という形にはなりませんが、裁判上の和解には、判決と同じ効力(強制執行ができる力)があります。
メリット
- 早期解決・確実な履行
- 判決を待たずに終了します。また、相手が納得して支払うため、差し押さえなどをしなくても任意に支払われる可能性が高いです。
- 柔軟な解決が可能
- 「分割払い」や「謝罪条項を入れる」、「口外禁止条項(他言しない)」など、判決では書けない内容を盛り込めます。
- 控訴のリスクがない
- 和解が成立すれば、そこで紛争は完全に終了(解決)します。相手から控訴されて裁判が続くリスクがゼロになります。
デメリット
- 100%の主張は通らない
- 「和解」の性質上、必ず何らかの譲歩(請求額の減額など)を求められます。
- 「勝訴」という形が残らない
- 公的な記録として「被告は原告に〇〇せよ」という命令(判決)ではなく、「双方は合意した」という形になります。
和解を選ぶべきケース
- 勝訴判決を取っても、相手にお金がなく回収できない恐れがある場合(少し減額しても、親族に肩代わりしてもらう等の条件で確実に回収する)。
- これ以上、裁判所に来るのが精神的に限界である場合。
- 「敗訴」のリスクが少しでもあると感じる場合。
3. 「判決」までもつれ込むメリット・デメリット
和解を拒否し、裁判所に最終的な判断を下してもらうのが「判決」です。
メリット
- 白黒はっきりする
- 主張が認められれば、あなたの正当性が公的に認められます。
- 妥協しなくて済む
- 相手が不合理な主張をしている場合、無理に譲歩する必要がありません。
デメリット
- 「オール・オア・ナッシング」のリスク
- 一部勝訴もありますが、負ける時はゼロ(請求棄却)になります。
- 時間がかかる・控訴のリスク
- 判決文を書く期間(1〜2ヶ月)が必要です。また、勝ったとしても相手が不服として**「控訴」**すれば、舞台を高裁に移して戦いが続きます。
- 回収の難易度
- 相手が「判決には従わない」と開き直った場合、自分で相手の財産を探して強制執行(差し押さえ)をする必要があります。
4. 和解か判決か? 決断のための比較表
| 項目 | 和解(Wakai) | 判決(Hanketsu) |
| 解決スピード | 早い(合意した日) | 遅い(指定期日+控訴の可能性) |
| 解決内容 | 柔軟(謝罪、分割など) | 硬直的(金銭の支払い命令が主) |
| 回収の確実性 | 比較的高い | 強制執行が必要な場合あり |
| 上訴リスク | なし(解決) | あり(控訴・上告) |
| 納得感 | 譲歩が必要 | 白黒つくが、負けるリスクも |
5. 本人訴訟特有の「落とし穴」に注意
最後に、弁護士を付けずに戦う方が、この最終局面で陥りやすいミスをお伝えします。
① 感情的になって「和解」を蹴らないこと
相手の顔も見たくない、一円もまけたくないという感情は理解できます。しかし、**「実利(回収できる金額と時間)」**を優先してください。
「判決で勝ったが、相手が無一文で1円も取れなかった」よりも、「和解で少し減額したが、確実に翌月振り込まれた」方が、結果として成功といえるケースは多いです。
② 和解条項(和解の文章)は慎重に確認する
法廷で口頭で合意した内容は、書記官が「和解調書」にまとめます。この文言は非常に強力です。
- **「清算条項(せいさんじょうこう)」**に注意してください。「本件に関し、これ以上の債権債務がないことを確認する」という条項が入ると、後から「やっぱりあれも請求したい」と言えなくなります。
③ 判決を望むなら「最終準備書面」に全力を
判決を選択する場合、最後に**「最終準備書面」を提出することが多いです。
これは、これまでの主張の総まとめです。ここで新たな証拠を出すのではなく、「なぜ自分の言い分が正しく、相手の言い分が矛盾しているか」**を、裁判官に分かりやすくプレゼンテーションする最後のチャンスです。
まとめ
本人訴訟の最終局面は、法律知識以上に**「戦略的判断」**が求められます。
- 裁判官の心証(態度)から、勝敗の行方を予測する。
- 「時間・労力・回収可能性」を天秤にかけ、和解のメリットを検討する。
- 和解条項は、不利な内容が含まれていないか一言一句確認する。
ここまでお一人で戦ってこられたこと、敬意を表します。
もし、「裁判官から提示された和解案が妥当か分からない」「最終準備書面の書き方が不安」という場合は、この最終段階だけでも弁護士の「法律相談」を利用することをお勧めします。
スポット(単発)の相談で、和解案のリーガルチェックや、最後のアドバイスを受けることが可能です。
納得のいく解決ができるよう、応援しております

