本人訴訟の最終局面|「和解」か「判決」か?判断基準と注意点を徹底解説

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弁護士町田北斗

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本人訴訟
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いよいよ裁判も終盤(結審)に差し掛かると、裁判官から**「和解」**の打診を受けることが多々あります。ここで多くの本人訴訟の方が悩みます。

  • 「ここまで戦ったのだから、白黒はっきり判決をもらうべきか?」
  • 「裁判官が勧めるなら、和解に応じたほうがいいのか?」

この判断を誤ると、勝てるはずの勝負で不利になったり、逆に泥沼の控訴審へともつれ込んだりする可能性があります。

今回は、本人訴訟の最終局面における**「和解と判決のメリット・デメリット」と、「後悔しないための判断基準」**について、弁護士の視点から解説します。

裁判官は、基本的に和解を強烈に薦めてきます。
和解に応じる意図がない場合には、一貫して拒否する態度を示しておくことが重要です。


1. 裁判官の「心証(しんしょう)」を読み解く

最終局面で最も重要なのは、**「裁判官が今、どちらを勝たせようと思っているか(心証)」**を読み取ることです。

裁判官が和解を勧めるタイミングは、多くの場合、証人尋問が終わった直後や、主要な争点が整理された段階です。ここで裁判官が発する言葉には大きなヒントが隠されています。

  • 「原告(あなた)の主張も分かりますが、立証のハードルは高いですよ」
    • 【危険信号】 あなたが負ける可能性が高い、あるいは全額は認められない可能性を示唆しています。「少しでも取れるうちに和解した方が得」というメッセージかもしれません。
裁判官
裁判官

【裁判官の本音】
請求額の10~20%で和解したらどうですか?
判決になればゼロですよ・・・

  • 「被告にめぼしい資産は無いということです。」
    • 【有利信号】 あなた(原告)が勝つ見込みが高いですが、被告に差押えできる資産がないので、「少し減額してあげたら」と促しています。
裁判官
裁判官

【裁判官の本音】
勝訴判決をとっても回収(差押え)は簡単ではないですよ。
請求額を大きく減額してみたら?

弁護士のアドバイス

裁判官の和解勧告は、単なる「話し合いの勧め」ではなく、**「判決の予告編」**であることが多いです。感情的にならず、裁判官が「どの程度の譲歩を求めているか」を冷静に分析してください。


2. 「和解」で終わらせるメリット・デメリット

「和解」とは、お互いが譲歩して紛争を解決することです。

「勝ち・負け」という形にはなりませんが、裁判上の和解には、判決と同じ効力(強制執行ができる力)があります。

メリット

  1. 早期解決・確実な履行
    • 判決を待たずに終了します。また、相手が納得して支払うため、差し押さえなどをしなくても任意に支払われる可能性が高いです。
  2. 柔軟な解決が可能
    • 「分割払い」や「謝罪条項を入れる」、「口外禁止条項(他言しない)」など、判決では書けない内容を盛り込めます。
  3. 控訴のリスクがない
    • 和解が成立すれば、そこで紛争は完全に終了(解決)します。相手から控訴されて裁判が続くリスクがゼロになります。

デメリット

  1. 100%の主張は通らない
    • 「和解」の性質上、必ず何らかの譲歩(請求額の減額など)を求められます。
  2. 「勝訴」という形が残らない
    • 公的な記録として「被告は原告に〇〇せよ」という命令(判決)ではなく、「双方は合意した」という形になります。
  3. 和解の内容によって、強制執行できない場合がある
    和解の内容は、当事者が自由に合意できるものです。和解調書という形で書面に残します。この和解内容が守られない場合には、この和解調書をもとに強制執行できるのですが、調書の記載内容によっては強制執行することができない場合もあります。

「和解」を選ぶべき3つのケース|実質的な勝利をつかむために

1. 相手にお金がなく、回収不能のリスクがある場合

「勝訴判決」と「実際にお金が手に入ること」はイコールではありません。 たとえ裁判で「被告は原告に対し300万円を支払え」という判決を勝ち取ったとしても、相手方に預貯金や不動産などの財産が全くなければ、強制執行(差し押さえ)をしても1円も回収できない「絵に描いた餅」になるリスクがあります。

和解による解決策

このような場合、和解交渉において以下のような条件を引き出せるのであれば、和解を選ぶべきです。

  • 請求額を少し減額する代わりに、確実に支払わせる
  • 相手方本人には資力がないが、親族などに「連帯保証人」になってもらい、肩代わりして払ってもらう
  • 無理のない分割払いを認める代わりに、第1回目の支払いを多めに確保する

「額面通りの判決(紙切れ)」よりも「減額してでも確実な現金」を手にする方が、経済的なメリットは圧倒的に大きくなります。


2. 「敗訴」のリスクが濃厚な場合

裁判に「絶対」はありません。 ご自身では「100%自分が正しい」と確信していても、証拠の有無や法的な評価によっては、裁判官が同じように認定してくれるとは限りません。
判決になれば、ゼロになる可能性が高いと示唆されているのであれば、請求額を大幅に譲歩して10~20%での和解も実務上は多いです。

和解による解決策

裁判官が提示する和解案は、判決の予測(心証)に基づいていることが一般的です。
判決でゼロ(敗訴)になるリスクを抱えてギャンブルをするよりも、「互譲(お互いに譲り合う)」の精神で、納得できるラインでの解決金を確保する方が、安全かつ賢明な判断と言えるでしょう。

3. 「判決」までもつれ込むメリット・デメリット

和解を拒否し、裁判所に最終的な判断を下してもらうのが「判決」です。

メリット

  1. 白黒はっきりする
    • 主張が認められれば、あなたの正当性が公的に認められます。
  2. 妥協しなくて済む
    • 相手が不合理な主張をしている場合、無理に譲歩する必要がありません。

デメリット

  1. 「オール・オア・ナッシング」のリスク
    • 一部勝訴もありますが、負ける時はゼロ(請求棄却)になります。
  2. 時間がかかる・控訴のリスク
    • 判決文を書く期間(1〜2ヶ月)が必要です。また、勝ったとしても相手が不服として**「控訴」**すれば、舞台を高裁に移して戦いが続きます。
  3. 回収の難易度
    • 相手が「判決には従わない」と開き直った場合、自分で相手の財産を探して強制執行(差し押さえ)をする必要があります。

4. 和解か判決か? 決断のための比較表

項目和解(Wakai)判決(Hanketsu)
解決スピード早い(合意した日)遅い(指定期日+控訴の可能性)
解決内容柔軟(謝罪、分割など)硬直的(金銭の支払い命令が主)
回収の確実性比較的高い強制執行が必要な場合あり
上訴リスクなし(解決)あり(控訴・上告)
納得感譲歩が必要白黒つくが、負けるリスクも

5. 本人訴訟特有の「落とし穴」に注意

最後に、弁護士を付けずに戦う方が、この最終局面で陥りやすいミスをお伝えします。

① 感情的になって「和解」を蹴らないこと

相手の顔も見たくない、一円もまけたくないという感情は理解できます。しかし、**「実利(回収できる金額と時間)」**を優先してください。

「判決で勝ったが、相手が無一文で1円も取れなかった」よりも、「和解で少し減額したが、確実に翌月振り込まれた」方が、結果として成功といえるケースは多いです。

② 和解条項(和解の文章)は慎重に確認する

法廷で口頭で合意した内容は、書記官が「和解調書」にまとめます。この文言は非常に強力です。

  • **「清算条項(せいさんじょうこう)」**に注意してください。清算条項には、2パターン存在ます。違いをよく理解したうえで、選定してください。

清算条項とは、簡単に言えば「この事件については、これで全て終わり。あとから蒸し返さない」という約束です。 これを入れることで、後日「やっぱりまだ慰謝料が足りない」「他にも請求したいことがある」と言われるのを防ぎ、紛争を完全に解決(断ち切る)機能を持っています。

項目A:限定的清算条項(「本件に関し」がある)B:包括的清算条項(「本件に関し」がない)
清算条項の文言例原告と被告は、本件に関し、両名間に何らの債権債務がないことを確認する。原告と被告は、何らの債権債務がないことを確認する。
消滅する権利の範囲この裁判(事件)に関するものだけ
(対象が限定される)
当事者間のすべての権利義務
裁判とは無関係のものも含む
別件の貸金の扱い
(例:交通事故の裁判で和解した場合)
消滅しない
(別途、請求することができる)
消滅する可能性が高い
(「債権債務なし」として放棄したことになる)
メリット他のトラブルや契約関係に影響を与えずに、この事件だけを解決できる。当事者間のすべてのしがらみを断ち切り、完全な解決(縁切り)ができる。
注意点紛争の蒸し返し(別件での訴訟など)が起きる可能性がある。うっかり忘れていた債権(貸金や未払金など)まで消滅させてしまうリスクがある。
適したケース・他にも取引関係が続いている場合
・別の事件が係争中の場合
・離婚や不貞慰謝料請求
・今後一切関わりたくない場合

③ 判決を望むなら「最終準備書面」に全力を

判決を選択する場合、最後に**「最終準備書面」を提出することが多いです。

これは、これまでの主張の総まとめです。ここで新たな証拠を出すのではなく、「なぜ自分の言い分が正しく、相手の言い分が矛盾しているか」**を、裁判官に分かりやすくプレゼンテーションする最後のチャンスです。審理の全体を通じて、行われた双方の主張や証拠を整理して、対応関係が明瞭になることを意識して作成します。


まとめ

本人訴訟の最終局面は、法律知識以上に**「戦略的判断」**が求められます。

  1. 裁判官の心証(態度)から、勝敗の行方を予測する。
  2. 「時間・労力・回収可能性」を天秤にかけ、和解のメリットを検討する。
  3. 和解条項は、不利な内容が含まれていないか一言一句確認する。

もし、「裁判官から提示された和解案が妥当か分からない」「最終準備書面の書き方が不安」という場合は、この最終段階だけでも弁護士の「法律相談」を利用することをお勧めします。

スポット(単発)の相談で、和解案のリーガルチェックや、最後のアドバイスを受けることが可能です。

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