「昔からの付き合いだから」「急ぎの案件だったから」
信頼関係のもと、契約書を交わさずに仕事を進めることは、現在の実務の現場では珍しくありません。しかし、いざ報酬を請求する段階になって「そんな金額は約束していない」「そもそも発注していない」とトラブルになった時、契約書がないことは致命的になり得ます。
口約束でも契約は成立します。そして、LINEやメールも裁判で有力な証拠になり得ます。
この記事では、契約書がない場合の法的効力と、トラブル解決のために集めるべき「証拠」について解説します。
1. そもそも「口約束」で契約は成立するのか?
まず大前提として、日本の法律(民法)では、一部の例外(保証契約など)を除き、契約書の作成は契約の成立要件ではありません。
- 当事者の合意(申し込みと承諾)
これさえあれば、口頭であっても、メールやLINEのやり取りであっても、法的に有効な契約として成立します(諾成契約といいます)。
なぜ「契約書」が必要なのか?
契約書がなくても契約は有効ですが、トラブルになった際に**「言った・言わない」の水掛け論になるリスクがあります。契約書の最大の役割は、「契約があったこと」と「その中身」を証明するための「証拠」**としての機能です。
2. LINEやメールは「証拠」として認められるか?
「契約書」というハンコが押された紙がなくても、あきらめる必要はありません。裁判実務において、LINE、メール、チャットワーク、Messengerなどのやり取りは、契約の存在を証明する「有力な証拠」として扱われます。
裁判所は、以下のような要素がメッセージに含まれているかを確認し、契約の成立を認定します。
証拠能力が高いメッセージの具体例
単に「了解しました」だけでなく、以下の**「契約の重要要素」**が含まれているやり取りを探してください。
| 重要要素 | LINE・メールでの具体例 |
| 業務の内容 | 「〇〇のWebサイト制作の件ですが~」「××工事の件、着手します」 |
| 金額(報酬) | 「見積もりの通り**30万円(税別)**でお願いします」 |
| 発注の意思 | 「その条件で正式にお願いします」「進めてください」 |
| 納期・期限 | 「今月末までに納品をお願いします」 |
【弁護士のポイント】
相手からの「お願いします」という一言だけでなく、その前後の**「見積書を添付したメッセージ」や「具体的な作業内容を提案したメッセージ」**とセットで保存しておくことが極めて重要です。
3. トラブル発生!今すぐやるべき証拠保全の3ステップ
相手が支払いを渋ったり、契約を否定してきた場合、すぐに以下の行動をとってください。相手がメッセージを取り消したり、アカウントを削除したりする前に行う必要があります。
① LINE・チャットの「スクリーンショット」と「履歴保存」
- スクリーンショット:ただ本文を撮るのではなく、**「相手の名前」「送信日時」**が入るように撮影してください。
- テキストデータの保存:LINEには「トーク履歴を送信」する機能があります。万が一のためにテキストデータとしてもバックアップを取っておきましょう。
② その他の周辺証拠をかき集める
メッセージ以外にも、契約を推認させる事実は証拠になります。
- 着手金や中間金の入金履歴(通帳の記帳)
- 作成した成果物・納品データ(実際に仕事をしたという事実)
- 業務日報や手帳のメモ(打ち合わせの日時や内容の記録)
- 通話録音(事後の交渉であっても、「あの時は〇〇円と言っただろう」という発言が取れれば大きな証拠になります)
③ 内容証明郵便を送付する
弁護士名義、あるいはご自身名義であっても、**「内容証明郵便」**を送ることは相手に強い心理的プレッシャーを与えます。「法的手続き(訴訟など)も辞さない」という強い意思表示になるため、この段階で支払いに応じるケースも少なくありません。
4. 今後トラブルを避けるための「自衛策」
これからは、どんなに親しい間柄でも、必ず**「文字で残す」**癖をつけましょう。
正式な契約書を作る時間がない場合でも、以下のメールを一本送るだけで、リスクは激減します。
【発注確認メールの例】
〇〇様
本日はお打ち合わせありがとうございました。
先ほどの口頭での合意内容に基づき、以下の通り業務に着手いたします。
・業務内容:〇〇の作成
・報酬金額:〇〇万円(税別)
・納期:〇月〇日
認識に相違がございましたら、〇日までにご返信ください。
特にご返信がなければ、この内容で進めさせていただきます。
このメールに対し、相手から否定する返信がなければ、**「黙示の承認」**があったと主張しやすくなります。
まとめ:契約書がなくても諦めないでください
「契約書がないから請求できない」というのは誤解です。
お手元のスマートフォンにあるLINEやメール、そしてこれまでの業務の実績そのものが、あなたの権利を守る武器になります。
- 口約束でも契約は成立する。
- LINEやメールは重要な証拠になる。

