スモールビジネスの立ち上げ期や拡大期において、経営者は営業、実務、経理と走り回る日々を送られていることでしょう。そんな中で、つい後回しになりがちなのが「契約書」のチェックです。
「信頼関係があるから大丈夫」「相手が大手だから問題ないだろう」 そう思ってハンコを押したその契約書が、後々会社の存続を揺るがすトラブルの火種になることがあります。
今回は、スモールビジネスで頻出する4つの契約類型について、経営者が**「ここだけは絶対に見落としてはいけない」**という重要規定(条項)を解説します。
1. 業務委託契約書(請負・準委任)
フリーランスへの外注や、逆に自社がサービスを提供する際に最も多く使われるのが業務委託契約書です。
① 業務の範囲(Scope of Work)
もっともトラブルになりやすいのが「どこまでやるか」です。
- リスク: 「これもやってくれると思っていた」「それは追加料金だ」という水掛け論。
- ポイント: 「コンサルティング業務」や「Webサイト制作」といった抽象的な言葉で終わらせず、別紙や仕様書を用いて**「何を行い、何を行わないか」**を明確にします。
② 成果物と検収(Acceptance)
特にシステム開発やデザイン制作(請負契約)で重要です。
- リスク: 納品したのに「イメージと違う」と言われていつまでも修正させられ、報酬が支払われない。
- ポイント:
- 検収の基準(仕様書通りか等)を定める。
- **「みなし検収」**条項(納品から○日以内に異議がなければ合格とみなす)を必ず入れる。
③ 知的財産権の帰属
- リスク: 制作物の著作権が相手に移転してしまい、自社のポートフォリオに使えなくなったり、二次利用ができなくなったりする。
- ポイント: 権利は「譲渡」するのか、「利用許諾(ライセンス)」にとどめるのかを確認します。譲渡する場合でも、対価が含まれているかを明記しましょう。
2. 売買契約書
商品の仕入れや販売を行うビジネスで必須の契約です。
① 所有権の移転時期
- リスク: 商品を配送中に事故で壊れた場合、まだ自社のものなのか、相手のものになっているのかで損害の負担が変わります。
- ポイント: 「出荷時」「納品時」「代金完済時」のいつ所有権が移るのかを確認します。特に売り手側の場合、「所有権留保」(代金が支払われるまでは所有権を渡さない)特約を入れることが重要です。
② 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)
- リスク: 商品に欠陥があった場合、いつまで責任を負うのか。民法原則では「知った時から1年」ですが、これでは長すぎることがあります。
- ポイント: ビジネス間の取引(BtoB)では、特約で責任期間を**「納品から6ヶ月」や「1年」**などに短縮・限定することが一般的です。
3. 秘密保持契約書(NDA)
他社との協業検討や、外部パートナーへの依頼時に締結します。
① 秘密情報の定義
- リスク: 定義が広すぎると、日常会話の内容まで秘密扱いになり、うっかり漏洩で賠償請求されるリスクがあります。
- ポイント: 「書面で『秘』と明記されたものに限る」など、情報の範囲を特定することが重要です。
② 有効期間
- リスク: 契約終了後も「永久に」秘密保持義務を負うのは管理コスト上の負担大です。
- ポイント: 「開示から3年間」や「契約終了後5年間」など、期限を区切るのが実務的です。
4. 賃貸借契約書(オフィス・店舗)
事務所や店舗を借りる際の契約です。長期にわたる固定費となるため慎重さが必要です。
① 解約予告期間と違約金
- リスク: 事業撤退や移転を決めても、「解約は6ヶ月前予告」となっていれば、退去を決めてから半年分の家賃を払い続けなければなりません。
- ポイント: 予告期間が何ヶ月か(3〜6ヶ月が一般的)、短期解約による違約金がないかを確認し、キャッシュフローへの影響を予測します。
② 原状回復義務
- リスク: 退去時に「スケルトン戻し」などを求められ、想定外の数百万円の工事費がかかることがあります。
- ポイント: 入居時の状態と、退去時にどこまで戻す必要があるのか(特約事項)を必ず契約前に確認してください。
共通:最後にこれだけはチェック!
どの契約書にも共通する「一般条項」にも落とし穴があります。
- 損害賠償の上限: 何かあった際、賠償額を「契約金額(報酬額)」を上限とする規定を入れることで、リスクを限定できます。
- 管轄裁判所: 万が一裁判になった際、相手方の本社所在地(例:遠方の都道府県)まで行かなければならないのは大変な負担です。「自社の本店所在地を管轄する裁判所」と交渉しましょう。
まとめ
契約書は、単なる形式的な書類ではなく、ビジネスのリスクをコントロールするための「最大の武器」であり「防具」です。
ひな形をそのまま使うのではなく、**「自社のビジネスモデルで起きたら困ること」**がカバーされているか、という視点で読み込むことが大切です。

