【弁護士解説】「残業代は手当に含んでいる」は通用しない?未払い残業代請求で会社が負けないための3つの防衛策

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弁護士町田北斗

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はじめに

「うちは営業手当を出しているから残業代はいらない」「店長は管理職だから残業代はつかない」 もし、このような認識で給与支払いをされているとしたら、非常に危険です。

近年、退職した元従業員から数百万円単位の未払い残業代を請求されるケースが急増しています。特にインターネットで法知識を得やすくなった現在、「知らなかった」では済まされない経営リスクとなっています。 今回は、多くの企業が陥りやすい「残業代の誤解」と、会社を守るための法的ポイントを解説します。


1. リスク①「固定残業代(みなし残業)」の運用ミス

最もトラブルが多いのが、「固定残業代(みなし残業)」制度です。 「基本給に含んでいる」「手当として払っている」という主張は、厳格な要件を満たしていない限り、裁判では認められません。

認められるための必須要件

固定残業代として法的有効性を認められるには、以下の要件が必要です。

  1. 明確な区分(判別可能性)
    • 給与の中で「基本給」と「固定残業代」が明確に金額として分かれていること。
    • (NG例:基本給30万円 ※残業代含む)
  2. 対価性の明示
    • その手当が「残業の対価」であることが雇用契約書や就業規則に明記されていること。
  3. 差額の支払い
    • 設定された時間を超えて残業をした場合、その超過分(差額)を別途支払っていること。

もし、これらが曖昧だと、「固定残業代として払ったつもりのお金」も「基本給」の一部とみなされ、それをベースに再計算した膨大な残業代を請求されることになります。


2. リスク②「名ばかり管理職」問題

「部長や店長といった役職者には残業代を払わなくていい」と誤解されていませんか? 労働基準法上の「管理監督者」に該当すれば、確かに残業代(深夜労働を除く)の支払いは不要です。

しかし、法律上の「管理監督者」のハードルは極めて高いものです。

  • 経営者と一体的な立場にあるか(重要な職務権限があるか)
  • 出退勤の自由があるか(遅刻・早退の概念がないか)
  • 相応の待遇を受けているか(一般社員と比べて十分な給与か)

単に「店長」という肩書があるだけや、少し手当がついている程度では、管理監督者とは認められず、過去に遡って残業代支払いを命じられるケースが多発しています。


3. リスク③ 労働時間の「証拠」管理

裁判になった際、最も重要なのが「労働時間の証拠」です。 もし会社側がタイムカードなどで適切に時間を管理していない場合、どうなるでしょうか?

従業員側が記録していた**「手帳のメモ」「交通系ICカードの履歴」「送信メールの時刻」**などが証拠として採用され、会社側の反論が認められない可能性があります。

また、**「1分単位」**での計算が原則です。「15分単位で切り捨て」などの処理は違法となり、切り捨てられた分の未払い賃金が発生します。


4. 未払い残業代請求の「時効」は3年に延長

2020年の民法改正に伴い、未払い残業代を請求できる期間(消滅時効)は、従来の2年から**「当面の間、3年」**に延長されました。

これは経営者にとって大きなインパクトです。 例えば、月5万円の未払いがあった場合、

  • 2年分なら:120万円
  • 3年分なら:180万円

さらに対象者が複数名いれば、その損害額は数千万円にのぼり、企業の存続に関わる事態になりかねません。裁判で悪質と判断されれば、元金に加え「遅延損害金」や「付加金(ペナルティ)」の支払いを命じられることもあります。


5. まとめ:就業規則と実態の乖離をなくす

残業代トラブルを防ぐためには、以下の点検が不可欠です。

  • 雇用契約書で「固定残業代」の定義が明確か?
  • 管理職の定義や運用は見合っているか?
  • 労働時間の管理(打刻ルール)は適正か?

「うちは従業員と信頼関係があるから大丈夫」という油断が最大の敵です。 トラブルが起きてから慌てるのではなく、平時のうちに専門家による「労務監査(リーガルチェック)」を受けることを強くお勧めします。

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