【弁護士解説】問題社員への対応と解雇の法的手順─トラブルを防ぐ実務ポイント

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弁護士町田北斗

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alt="親と未成年の子供の間で起こる「利益相反」の問題と、解決策としての「特別代理人」選任の手続きについて、弁護士が図解しているイラスト。記事『未成年の子供が相続放棄をするには?「利益相反」と「特別代理人」を弁護士が解説』のアイキャッチ画像。" スモールビジネス
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「何度注意しても改善しない社員がいる」 「協調性がなく、職場の雰囲気を悪化させる社員を辞めさせたい」

企業法務のご相談の中で、問題社員(ローパフォーマーや規律違反者)への対応は最も頻度が高く、かつ判断が難しいテーマの一つです。

日本の労働法制において、解雇のハードルは極めて高く設定されています。感情に任せて安易に解雇を言い渡すと、不当解雇として訴えられ、多額の解決金の支払いや従業員の復職を余儀なくされるリスクがあります。

本記事では、問題社員への適切な対応フローから、最終的な解雇に至るまでの実務的な手順を弁護士が解説します。


1. 日本における「解雇」の厳しさ(解雇権濫用の法理)

まず大前提として理解すべきは、労働契約法第16条の規定です。

労働契約法 第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、会社側が「辞めさせたい」と思っても、裁判所が納得するだけの**「客観的理由」「相当性(処分の重さのバランス)」**がなければ、解雇は認められません。

特に能力不足や協調性欠如を理由とする場合、**「会社は解雇を回避するために十分な努力(指導・教育・配置転換)を行ったか」**が厳しく問われます。


2. 問題社員対応の基本フロー

実務上、いきなり解雇通知を出すことは稀です。段階を踏んで記録を残すことが、会社を守る最大の防御策となります。

ステップ①:事実確認と記録化(証拠の確保)

「仕事ができない」「態度が悪い」といった主観的な評価ではなく、具体的な事実を記録します。

  • いつ(日時)
  • どのようなミス・問題行動があったか
  • 誰がどう迷惑を被ったか
  • 本人の言い分はどうか

ポイント: 口頭での注意だけでなく、メールや日報のコメント、面談記録など、形に残るもので履歴を作ることが重要です。

ステップ②:業務指導・改善命令(教育的指導)

単に叱責するのではなく、「何が問題で、どう改善すべきか」を具体的に指導します。

  • 書面による注意指導: 口頭注意で改善しない場合、注意書や指導書を交付します。
  • PIP(業務改善計画)の実施: 具体的な数値目標や期限を設定し、定期的に進捗を確認します。これにより「会社は教育の機会を与えた」という実績を作ります。

ステップ③:配置転換の検討

今の部署で適性がない場合、他の部署であれば能力を発揮できる可能性があります。配置転換を行ってもなお改善が見られない場合、「解雇回避努力を尽くした」という有力な証拠となります。

ステップ④:懲戒処分の検討(軽微なものから)

就業規則に基づき、譴責(けんせき)や減給などの軽い処分を積み重ねます。「解雇の前段階として、再三の警告を行った」という事実が必要です。


3. 「退職勧奨」の活用

解雇は会社による一方的な契約解除ですが、「退職勧奨」は合意による契約解除(合意退職)を目指すものです。

法的なリスクを最小限に抑えるためには、解雇に踏み切る前に、まずは退職勧奨を行うことが実務上のセオリーです。

  • メリット: 合意ができれば、「不当解雇」のリスクが消滅します。
  • 注意点: 執拗に退職を迫ると「退職強要」として違法行為(不法行為)になります。あくまで「労働者の自由な意思」で応じてもらう必要があります。

この段階で、特別退職金(パッケージ)の提示を行うなどして、円満な退職を目指すことも有効な戦略です。


4. 最終手段としての「解雇」

指導を尽くし、配転も検討し、退職勧奨にも応じない場合の最終手段が「解雇」です。解雇には大きく分けて2種類あります。

A. 普通解雇

能力不足、勤務態度不良、傷病による就労不能などを理由とする解雇です。就業規則の普通解雇事由に該当する必要があります。

B. 懲戒解雇

横領、重大な経歴詐称、長期の無断欠勤など、企業秩序を著しく乱した場合の制裁罰としての解雇です。 ※懲戒解雇は普通解雇よりもさらにハードルが高く、要件が極めて厳格です。実務上は、事案が深刻であっても普通解雇を選択する、あるいは懲戒解雇事由があることを示して諭旨退職(自主退職)を促すケースも多くあります。


5. 解雇トラブルのリスクと弁護士の役割

万が一、不適切な手順で解雇を行うと、以下のようなリスクに直面します。

  1. 労働審判・訴訟: 解雇無効を求めて元従業員が法的アクションを起こします。
  2. バックペイ(未払い賃金): 解雇無効の判決が出ると、解雇期間中の賃金(バックペイ)を全額支払う必要があります。
  3. 職場復帰: 会社にとって好ましくない従業員を職場に戻さなければなりません。

弁護士に相談すべきタイミング

「解雇通知を出した後」にご相談いただいても、覆すことが難しいケースが多々あります。 もっとも効果的なのは、**「問題社員への対応に困り始めた段階(ステップ①〜②)」**です。

  • 注意指導書の文面チェック
  • 退職勧奨の進め方や条件提示のアドバイス
  • 解雇事由に該当するかの法的判断

これらを早期に行うことで、紛争を未然に防ぎ、あるいは紛争になったとしても会社側が勝てる証拠を積み上げることが可能になります。

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