【手遅れになる前に】弁護士が教える!親が認知症になる前に家族がすべき「財産凍結」を防ぐ3つの対策

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弁護士町田北斗

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弁護士による「親が認知症になる前の財産凍結対策」解説記事のアイキャッチ。通帳や権利書が凍結した「財産凍結」のリスクと、それを防ぐための「家族信託」「任意後見」「遺言書」という3つの重要な対策を、弁護士と家族のイラストで分かりやすく表現。 相続
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🏃「間に合ううちに」家族がすべきこと!認知症になる前の3つの最重要対策

親御さんやご家族が認知症と診断されてしまうと、資産の売却や運用、生前の相続対策(遺言書の作成など)は原則としてできなくなります。そうなってから焦らないよう、今すぐ家族が協力して取り組むべき3つの最重要対策を解説します。

【本記事のポイント】
①資産の棚卸を定期的に行う。(家族が集まる正月やお盆休みにルーティーン化)
②デジタル資産のアカウント情報を共有しておく。
③家族信託、任意後見契約、法定後見制度の違いを理解しておく。

1. 資産の「見える化」と情報の一元化

1. 家族がまず作成すべき「全財産チェックリスト」

認知症発症後に「どこに何があるか分からない」という状態を防ぐため、以下の項目について紙または安全なデジタルデータで記録し、ご家族で一元管理しましょう。

📄 記録すべき全財産リストの詳細

1. 不動産(実家、土地、その他投資物件)
確認事項具体的なアクションと記録場所
所在地・名義人固定資産税の納税通知書、または登記簿謄本(法務局で取得)で正確な情報を確認し、記録する。
評価額・ローン残高納税通知書記載の評価額、銀行からのローン残高証明書を確認する。特に共有名義の不動産がないかを確認する。
【危険な資産】**「空き家」「負の動産(山林など)」**の有無。これらは相続後の管理責任が重くなるため、早めに処分する方向で話を進める。
2. 銀行・郵便局の口座
確認事項具体的なアクションと記録場所
金融機関名・支店名通帳、キャッシュカード、金融機関からの郵便物をすべてリスト化する。
口座種別・口座番号普通、定期、投資信託、国債など、口座の種別と番号を正確に記録する。
【要注意】ネット銀行楽天銀行、PayPay銀行など、通帳がないネット銀行は、IDとパスワードの記録を最優先し、ログイン方法を確認する。
休眠口座長期間使われていない口座(休眠口座)がないか、ご本人に聞き取りを行う。
3. 証券・生命保険
確認事項具体的なアクションと記録場所
証券会社・商品名特定口座、NISA口座などの種別と、現在運用している銘柄を記録する。
保険会社・契約内容満期日、解約返戻金の概算に加え、**誰が死亡保険金を受け取る契約になっているか(受取人)**を明確に記録する。
【重要】証券口座の**「特定口座」や「源泉徴収」の状況**は、税理士への相談時に重要となるため控えておく。
4. デジタル資産と重要契約
確認事項具体的なアクションと記録場所
ログイン情報スマートフォン、パソコン、クラウドサービス(iCloud/Google Drive)、SNSなどのパスワードを**「パスワード管理ノート」**などに記録する。
【要対応】ネット銀行ID/パスワードに加え、ワンタイムパスワード生成器や、緊急連絡先を記録する。
サブスクリプション毎月引き落とされている**有料サービス(新聞、動画配信、アプリなど)**をリスト化し、解約の可否を確認する。

デジタル資産の相続トラブル回避策を知りたい方>デジタル資産の相続トラブルを避けるには?弁護士が解説する生前対策と注意点


2. 資産の「意思決定リスト」作成(弁護士への準備)

財産のリストアップが完了したら、次に**「その財産を将来どうしてほしいか」**というご本人の具体的な意向を記録に残します。これは、遺言書や家族信託の設計図となります。

  • 実家(不動産)の意向:
    • 将来、誰に引き継いでほしいか?
    • 介護や医療費が必要になったら、売却して資金に充当しても良いか?
  • 預貯金の意向:
    • 介護や生活費として、毎月いくらくらい使ってほしいか?
    • 特定の孫や家族に、生前に渡したい金額があるか?
  • 判断能力低下時の管理:
    • もし認知症になったら、誰に財産管理を任せたいか?(家族信託の設計に直結)

この「意思決定リスト」を基に弁護士にご相談いただくことで、ご本人の意思を最大限に尊重した「家族信託契約」や「公正証書遺言」を、スムーズかつ確実に作成できます。

2. 資産を守り、円滑に引き継ぐための「法的な対策」

資産の「見える化」ができたら、いよいよ「誰が」「どのように」管理し、相続させるかを決める法的な準備に入ります。これは、ご本人の意思能力があるうちにしかできません。

① 家族信託(民事信託)の検討

認知症発症後も、ご家族が資産を柔軟に管理・運用できるようにするための、最も強力な対策の一つです。

  • 仕組み: 財産管理の権利(受託者)をご家族に渡し、財産の名義を変えずに、あらかじめ決めた目的(例:介護費用に使う、将来長男に相続させるなど)のために管理してもらいます。
  • 最大のメリット: 認知症になっても銀行口座が凍結せず、不動産の売却や賃貸運用がスムーズに続けられます。 *
  • 弁護士の役割: 家族信託契約書の作成と、財産の移管手続きをサポートします。
👨‍👩‍👧‍👦 家族信託(民事信託)とは

家族信託とは、特定の家族に財産管理を託すことを目的とした、財産管理契約の一つです。営利を目的としないため、「民事信託」とも呼ばれます。

信託契約を結ぶことで、ご本人の意思能力が低下した後も、ご家族が柔軟かつ継続的に財産を管理・運用できるようになります。

1. 家族信託の仕組みと登場人物

家族信託を理解するには、以下の3つの役割を知る必要があります。

役割意味誰がなるか(例)
委託者 (いたくしゃ)自分の財産を託す人。信託の目的を設定する。財産を持つ親(本人)
受託者 (じゅたくしゃ)財産を託され、管理・運用する人。信頼できる子ども
受益者 (じゅえきしゃ)財産から生じる利益を受け取る人。財産を持つ親(本人)または配偶者

【ポイント】

委託者と受益者は多くの場合、**同一人物(親)**となります。親の資産管理を子どもに任せつつ、その利益は親が受け取るという仕組みです。

2. 家族信託の最大のメリット

なぜ、今「家族信託」が注目されているかというと、主に認知症による「資産凍結リスク」を回避できる点にあります。

  • ① 資産凍結を防ぐ: 委託者が認知症になり判断能力を失っても、受託者(子ども)の権限は失われません。不動産の売却や銀行口座の管理・運用を継続できます。
  • ② 柔軟な資産承継: **「二次相続以降の承継先」**まで、事前に設計できます。「私の死後は配偶者に、その配偶者の死後は甥に」など、遺言書では実現できない複雑で柔軟な承継計画が可能です。
  • ③ 裁判所の関与なし: 成年後見制度と異なり、原則として裁判所の監督を受けないため、財産管理・運用の自由度が高く、手間やコストも抑えられます。
3. 成年後見制度との違い

家族信託は、認知症対策として比較される成年後見制度と目的が異なります。

項目家族信託成年後見制度
目的積極的な資産の管理・運用、承継。本人の財産保護と身上監護。
自由度い。契約内容次第で柔軟に運用できる。い。裁判所の許可が必要な手続きが多い。
開始時期契約締結時(原則、本人が元気なうち)。判断能力喪失後(裁判所への申立て)。
費用初期の契約作成費用が主(弁護士費用など)。後見人への継続的な報酬が発生する。
家族信託にかかる費用報酬の相場費用の決まり方
コンサルティング・設計費用30万円 〜 100万円以上財産の種類や数(不動産の数)、家族関係の複雑さ、信託目的の細かさによって変動します。
信託契約書作成費用上記のコンサルティング費用に含まれることが多い。公正証書作成のための原案作成費用です。
登記手続き報酬10万円 〜 20万円程度不動産の信託登記(所有権移転および信託登記)を行う司法書士への報酬です。

家族信託を活用するには、専門家報酬や登記費用等のコストが発生します。
コストが負担になる方は、任意後見契約をご検討ください。

② 任意後見契約の準備

まだ元気なうちに、将来認知症になったときのために、誰に(任意後見人)、どんな内容で(見守り、財産管理など)面倒を見てもらうかを、公正証書で契約しておく制度です。

  • 仕組み: 契約は、将来ご本人が判断能力を失った時点で効力が発生します(家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督下)。
  • メリット: 法定後見制度と異なり、ご本人の意思で後見人を選ぶことができます。
  • 弁護士の役割: 任意後見契約書作成のサポート、また、ご家族以外(専門家)を後見人の候補者とすることも可能です。

「任意後見契約」は、先ほど解説した家族信託と並び、**認知症などのリスクに備えるための「生前対策」**の重要な柱の一つです。

ご質問の「任意後見契約」について、その仕組みと法的な特徴を解説します。


🤝 任意後見契約とは

任意後見契約とは、ご本人の判断能力が低下した場合に備えて、判断能力が十分にあるうちに、ご自身で信頼できる人(親族や弁護士などの専門家)を選び、どのような支援(後見事務)をしてもらうかをあらかじめ契約しておく制度です。

実際に支援が開始するのは、本人の判断能力が低下したときです。
この点が家族信託との本質的な違いとなります。

1. 任意後見契約の仕組み(開始時期)

最大の特徴は、「契約時」と「効力発生時」に時間差があることです。

  1. 契約の締結: 本人が元気なうちに、後見人となる人(任意後見人)と公正証書を作成して契約を結びます。
  2. 効力の発生: 本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が**「任意後見監督人」**を選任した時点から、契約の効力が発生します。
  • 【ポイント】 契約を結んだからといって、すぐに効力が発生するわけではありません。本人の意思能力が低下し、かつ裁判所の関与があって初めて始動します。
2. 登場人物と役割
役割機能(意味)
本人 (委任者)将来の後見人を選び、委任する内容を決める人。自己決定権の行使。
任意後見人本人の判断能力低下後、契約に基づき財産管理や身上監護を行う人。
任意後見監督人家庭裁判所から選任され、任意後見人が契約通り適切に職務を行っているかを監督する人。
3. 任意後見制度の最大のメリット

**「自己決定権の尊重」**こそが、任意後見契約の最大のメリットです。

  1. 信頼できる人を選べる: 法定後見制度と異なり、後見人(財産を託す人)を自分で自由に選べます。親族だけでなく、専門家(弁護士など)を選任することも可能です。
  2. 支援内容を決められる: 財産管理の範囲具体的な支援内容(例:自宅の管理、施設の入所契約、医療費の支払いなど)を事前に契約で細かく定めることができます。
4. 法定後見制度との違い
項目任意後見契約法定後見制度
後見人の選定本人が選ぶ(契約で指定)。家庭裁判所が選ぶ(希望通りになるとは限らない)。
支援内容契約で自由に決められる。法律で定められた包括的な権限に限定される。
💰 任意後見契約にかかる費用相場
1. 契約時(準備段階)にかかる費用

この費用は、契約を締結する際に一度だけ発生する費用です。

費用の種類費用の相場費用の決まり方
専門家への報酬10万円 〜 30万円程度弁護士や司法書士が契約内容のコンサルティング、契約書案の作成、公正証書作成時の立ち会いを代行するための報酬です。
公証人手数料約1万円〜2万円契約を公正証書にするために公証役場に支払う法定手数料です。財産額に関わらず、手数料は比較的定額です。
登記印紙代約4,000円任意後見契約を法務局に登記するための印紙代です。
その他実費数千円住民票などの公的書類の取得費用です。

【契約時の合計目安】

専門家への報酬を含めて、15万円 〜 40万円程度が目安となります。

2. 契約発効後(後見事務開始後)にかかる費用

ご本人の判断能力が低下し、任意後見契約の効力が発効した後に、毎月または毎年継続的に発生する費用です。

① 任意後見人への報酬(継続費用)
  • 後見人が家族の場合: 報酬を無報酬とする契約も可能ですが、家族が事務負担の対価として報酬を設定するケースもあります。
  • 後見人が専門家(弁護士など)の場合: 契約内容や管理財産額に応じて、月額2万円〜6万円程度の報酬が発生します。
② 任意後見監督人への報酬(必須費用)

任意後見契約が発効すると、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されます。この監督人への報酬は必須であり、本人の財産から支払われます。

  • 報酬の目安: 財産額に応じて、月額1万円〜3万円程度が目安です。

【発効後(本人の判断能力低下後)の注意点】
任意後見契約は、監督人への報酬が必須となるため、発効後は毎月最低でも1万円以上の継続的な支出が発生することになります。

③ 遺言書の作成・定期的な更新

相続争いを防ぎ、ご本人の最後の意思を実現するためには、公正証書遺言を作成しておくことが不可欠です。

  • 作成すべき理由: 認知症になってからでは遺言書は作成できません。また、後見制度が開始すると、その後の財産管理は裁判所の監督下に置かれます。
  • 弁護士の役割: 法的に有効な遺言書の作成、遺産の分け方の助言、執行者の指定などを行います。

3. 介護・医療に関する意向の確認

財産だけでなく、ご本人の身体に関することも確認しておきましょう。

  • 延命治療の意向: 延命治療を希望するかどうか、どのような医療を受けたいか。
  • 介護施設への入所の希望: 費用や場所など、どのような施設を希望するか。

これは法的な対策ではありませんが、意向を共有することで、いざという時にご家族が迷わず、本人の尊厳を守った選択ができるようになります。


📞 弁護士にご相談いただく最適なタイミング

認知症になる前の対策は「時間との勝負」です。ご本人の判断能力が少しでも残っているうちに、これらの対策を実行しなければ、すべての法的手段が閉ざされてしまいます。

  • 以下のような状況になったら、すぐにご相談ください。
    • ご家族間で財産管理や将来の介護について意見が対立し始めた。
    • 家族信託や任意後見契約について、具体的な内容を設計したい。
    • 不動産の売却や生前贈与を検討している。

「まだ大丈夫」と放置してしまうと、数年後には解決が難しくなります。お早めに専門家にご相談ください。

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