相続人の資格を剥奪する最終手段:「推定相続人の廃除」の厳格な要件と手続き

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弁護士町田北斗

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弁護士が解説する「推定相続人の廃除」の厳格な要件と手続きに関する記事のアイキャッチ。相続人の資格を剥奪する「最終手段」であることを木槌と鎖のイラストで象徴的に表現し、家庭裁判所での手続きの流れを分かりやすく図解した画像。 相続
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推定相続人の廃除とは、被相続人(財産を残す人)が、特定の推定相続人(将来の相続人となるべき人)に対し、相続権を永久に奪うために行う法的な手続きです。これは単なる「財産を渡したくない」という個人的な意思表示ではなく、法律が定める厳格な事由家庭裁判所の決定が必須となる、非常に重い手続きです。

本記事のポイント
廃除が認められるには、高いハードルがあります。
ただし、日々の暴言や暴行などの非行を証明することができれば、廃除が認められる可能性は充分あります。
適切な証拠の積み上げの有無が判断を左右することになります。


1. 廃除の意義と対象となるもの

対象となる人

廃除の対象となるのは、遺留分を有する推定相続人です

2. 推定相続人の範囲(法定相続人の順位)

推定相続人は、民法で定められた法定相続人の順位に基づいて決まります。

  1. 常に相続人となる人: 配偶者(婚姻関係にある夫または妻)
  2. 第1順位: 直系卑属(子、子が亡くなっている場合は孫など)
  3. 第2順位: 直系尊属(父母、父母が亡くなっている場合は祖父母など)
  4. 第3順位: 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥姪)

【ポイント】 推定相続人の資格は、上位順位の人がいない場合に限って下位順位の人に及びます(例:第1順位の子がいなければ、第2順位の親が推定相続人となります)。

廃除の効果

廃除が成立すると、その推定相続人は相続権を完全に失います。最も重要な点として、相続権だけでなく、遺留分(相続人に最低限保証された相続分)も同時に失うことになります。

これは、遺言書で「財産を与えない」と指定するよりも、はるかに強力な法的効果を持つ処分です。(財産を与えないという遺言がある場合であっても、遺留分相当額は相続されます。)


2. 廃除が認められる厳格な法定事由

廃除は、以下の民法が定めるいずれかの重大な事由がある場合にのみ、家庭裁判所に認められます。単なる意見の対立や不仲といった理由では成立しません。

  1. 被相続人に対する虐待、または重大な侮辱を与えたとき
    • 例:肉体的・精神的な苦痛を与える暴力や暴言、公衆の面前での名誉を傷つける行為など、継続的な悪質な言動。
  2. 推定相続人に著しい非行があったとき
    • 例:多額の借金を作り被相続人の財産を脅かす、犯罪行為を行う、相続人としての資格を剥奪せざるを得ないほどの不貞行為や浪費。

【ポイント】 裁判所は、廃除が被相続人の真摯な意思に基づくものであり、かつ、相続人としての資格を剥奪せざるを得ないほど重大な事態であるかを厳しく審査します。(相続的協同関係破壊の可能性)

⚖️ 廃除が争われた具体的な裁判例の傾向

1. 虐待・重大な侮辱に関する事例

この事由では、被相続人(親など)の心身に継続的な苦痛を与えたかどうかが主要な論点となります。

事由認められた実例(廃除成立)認められなかった実例(廃除不成立)
虐待* 常に暴言を吐き、被相続人(親)を精神的に追い詰めたケース。
* 被相続人の生活費や預金を勝手に使い込んだ上、経済的に困窮させたケース。
* 長期間にわたる介護放棄により、被相続人の健康を著しく損ねたケース。
* 意見の対立が激しく、親子の間で長期間の絶縁状態にあっただけのケース。
* 一時的な口論や感情的な対立があり、喧嘩別れの状態が続いていたケース。
重大な侮辱* 公衆の面前で被相続人の名誉を著しく傷つける発言を繰り返したケース。 * **「恥知らず」「精神異常だ」**など、回復困難な精神的打撃を与える侮辱を継続したケース。* 廃除を申し立てた側の主観的な侮辱に留まり、客観的な証拠が不十分なケース。

2. 著しい非行に関する事例

この事由では、推定相続人の行為が社会的な規範から著しく逸脱し、被相続人の生活や財産を脅かしたかどうかが論点となります。

事由認められた実例(廃除成立)認められなかった実例(廃除不成立)
著しい非行* 多額の借金を作り、被相続人に債務整理や返済を強いるなど、財産を著しく危うくしたケース。
* 刑法上の重大な犯罪を犯し、有罪判決を受けたケース。
* 賭博や浪費を繰り返し、被相続人の生活基盤を破壊する危険に晒したケース。
* 相続人が軽微な借金を抱えたが、被相続人の財産に具体的な悪影響を及ぼしていないケース。
* 親が子どもの生活態度や仕事に不満を持っていたが、非行と呼ぶほどの重大性がないケース。

🚨 実務上の最大の難しさ

裁判例の傾向からわかるように、廃除が認められるハードルは非常に高いです。

**「単なる不仲」「親不孝」という感情論ではなく、「虐待」「侮辱」「非行」**といった事実を、**客観的な証拠(診断書、証言、第三者による記録、金銭の記録など)**に基づいて立証する必要があります。

弁護士の先生へのご依頼は、この**「立証の難しさ」**をクリアし、被相続人の意思を法的に確定させるために不可欠となります。


3. 廃除の手続き方法と裁判所の役割

廃除を行う方法は2つありますが、いずれの場合も家庭裁判所の関与が必須となります。

① 生前に行う場合

被相続人が生存中に、家庭裁判所に廃除の審判を申し立てる必要があります。裁判所は事実関係を調査し、審判を行います。

② 遺言書で行う場合

被相続人が遺言書の中で廃除の意思表示その理由を明確に記載します。 この場合、被相続人の死後、遺言執行者が遺言書を添えて家庭裁判所に廃除の審判を申し立てる必要があります。

推定相続人の廃除の審判申し立てに必要な費用

費用の種類費用(目安)詳細
申立手数料800円申立書に貼付する収入印紙代です。
郵便切手代3,000円 〜 5,000円程度裁判所が申立人や相手方(廃除される推定相続人)に通知を送るために使用する予納切手代です。裁判所によって金額は変動します。
戸籍謄本等取得費用数千円程度被相続人、推定相続人の戸籍謄本など、申立てに必要な公的書類の取得費用です。

推定相続人廃除の審判申立書記載例


⚖️ 弁護士にご依頼いただくべき理由

推定相続人の廃除は、単に不仲を主張するだけでなく、上記の法定事由に該当することを客観的な証拠をもって裁判所に立証しなければなりません。

この手続きは、家族の歴史と感情が絡む非常にデリケートな法的手続きです。

  • 適切な証拠の収集と整理
  • 遺言書における廃除意思の法的に充分な記載

これらを確実に行い、ご依頼者の最終的な意思を実現するためには、相続紛争の解決経験を持つ弁護士のサポートが不可欠です。廃除をご検討の際は、まずはご相談ください。

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