民事裁判において、書面のやり取りが一段落すると行われるのが**「証人尋問(しょうにんじんもん)」および「本人尋問(ほんにんじんもん)」**です。
ドラマや映画で見る「異議あり!」といったシーンのイメージが強いかもしれませんが、実際の法廷での尋問は極めて緻密なルールの下で行われます。特に弁護士をつけずに本人訴訟で戦っている方にとって、尋問は勝敗を分ける最大の山場と言っても過言ではありません。
今回は、本人訴訟で尋問に臨む際に知っておくべき基本構造と、失敗しないための具体的な注意点を解説します。
1. 尋問とは何か?その目的を理解する
まず、なぜ尋問を行うのかを理解しましょう。 裁判官は、それまでに提出された「陳述書」や「証拠書類」をすでに読んでいます。その上で、さらに法廷で話を聞く目的は主に2つです。
- 信用性の確認: 書面に書いてあることが本当かどうか、話している人の表情や態度、矛盾がないかを見て判断するため。
- 争点の深掘り: 書面だけでは不明確な点や、相手方の主張と食い違っている部分を明らかにするため。
用語の整理
- 証人尋問: 第三者(目撃者、関係者など)への質問。
- 本人尋問: 原告・被告自身(当事者)への質問。
2. 尋問の基本的な流れ
尋問は通常、以下の順番で行われます。この流れを体に染み込ませておくことが重要です。
① 主尋問(しゅじんもん)
申請した側(味方)が行う質問です。
- 目的: 自分の主張に沿ったストーリーを、裁判官にわかりやすく伝えること。
- 本人訴訟の場合: 自分が当事者の場合は、裁判官に話す形(陳述)になることもありますが、協力者に質問してもらうか、あるいは自分自身で語るスタイルをとります。
② 反対尋問(はんたいじんもん)
相手方(敵)が行う質問です。
- 目的: 主尋問での証言の矛盾を突いたり、信用性を落としたりすること。
- 注意点: ここが最も厳しい時間です。相手(弁護士である可能性が高い)は、あなたを崩そうと準備してきています。
③ 再主尋問(さいしゅじんもん)
反対尋問で崩されたり、誤解されたりした点を修正するための補足質問です。
3. 準備編:勝負の9割は「準備」で決まる
法廷でのアドリブは禁物です。プロの弁護士でも、徹底的な準備なしに尋問は行いません。
陳述書との整合性
尋問は、事前に提出した「陳述書」に基づいて行われます。陳述書の内容と、法廷での証言が食い違うと「この人は嘘をついているかもしれない」と裁判官に疑われます。自分の陳述書を何度も読み返し、暗記するレベルまで頭に入れておきましょう。
シミュレーション(リハーサル)
可能であれば、友人や家族を相手に練習してください。
- 質問に対して「一言で」答える練習。
- 意地悪な質問をされた時に、カッとならずに答える練習。
4. 実践編:尋問当日に気をつけるべき「3つの鉄則」
本人訴訟の方が最も失敗しやすいポイントをまとめました。
鉄則① 聞かれたことだけに答える(演説をしない)
これが最大のルールです。 質問者は「はい」か「いいえ」、あるいは具体的な事実(日時、場所、誰が等)を聞いています。
- 悪い例:
- 質問:「あなたは契約書にサインしましたか?」
- 回答:「サインはしましたが、それは彼が無理やり私に迫ってきて、断れない状況だったので仕方なく…(長々と事情を話す)」
- 解説: これは裁判官の心証を悪くします。「言い訳が多い」と捉えられます。
- 良い例:
- 回答:「はい、しました。」(事情は次の質問や、主尋問で説明する)
鉄則② わからないことは「わかりません」と言う
記憶が曖昧なことを無理に答えたり、推測で話したりするのは危険です。反対尋問でそこを突かれると、証言全体の信用性が崩壊します。
- 「覚えていません」
- 「今の質問の意味がわかりません」 とはっきり言うことは、恥ずかしいことではありません。
鉄則③ 感情的にならない(挑発に乗らない)
相手方の弁護士は、反対尋問であなたを怒らせようとするかもしれません。怒ると人は余計なことを口走ったり、論理が破綻したりするからです。
- どんなに不愉快な質問をされても、一呼吸置いて、冷静に、裁判官の方を向いて答えてください。
- 喧嘩をする場所ではなく、「事実」を淡々と述べる場所です。
5. 相手への質問(反対尋問)を行う際のコツ
あなたが相手方(または相手方の証人)に質問をする番になった時の注意点です。
議論をふっかけない
本人訴訟でよくあるのが、質問ではなく「議論」をしてしまうケースです。
- NG: 「あなたは〇〇と言いますが、それはおかしいじゃないですか!私はこう思うんですよ!」
- OK: 「あなたは〇〇と言いましたが、契約書の第3条には何と書いてありますか?」
尋問は**「相手から証言を引き出す」**ためのものであり、あなたの意見をぶつける場ではありません。意見は最終準備書面で書けば良いのです。
「はい・いいえ」で答えさせる質問(誘導尋問)を活用する
反対尋問では、答えを限定する質問が許されています。 相手に自由に喋らせると、言い訳を許してしまいます。「~という事実はありますね?」と畳み掛けるのがセオリーです。
6. まとめ:無理だと思ったら専門家の支援を
尋問は、独特のルールと空気感の中で行われる高度な手続きです。 本人訴訟で進めてきたものの、「尋問手続だけはどうしても不安だ」「尋問事項(質問書)の作り方がわからない」という場合は、この段階だけでも弁護士に相談することをお勧めします。
尋問での失敗は、取り返しがつかないことが多いからです。 十分な準備と冷静な心を持って、当日に臨んでください。
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