〜「絵に描いた餅」で終わらせないための、事前の資産チェック〜
「絶対に許せない。裁判をして白黒つけたい!」 そのお気持ちは痛いほど分かります。しかし、弁護士として私たちは、あえてこう問いかけることがあります。
「勝ったとして、相手にお金はありますか?」
実は、日本の民事裁判において「勝訴判決」と「お金の回収」は全く別の手続きです。
今回は、訴訟を始める前に必ず考えておくべき「強制執行(差し押さえ)」の視点について解説します。
【強制執行の具体的な手続きの流れ】については、下記記事をご覧ください。
1. なぜ「最初」に強制執行を考えるのか?
最大の理由は、裁判に勝訴しても裁判所は「相手に支払え」という判決書は交付してくれますが、「相手の財布から無理やりお金を取ってくる」ことまではしてくれないからです。
判決文(債務名義)は、あくまで「強制執行をするためのチケット(紙切れ)」に過ぎません。
相手が任意に支払わない場合、別途「強制執行」の手続きをする必要があります。
しかし、強制執行には残酷なルールがあります。
「ない袖は振れない(財産がない相手からは回収できない)」
もし相手にめぼしい財産がなければ、多大な労力と印紙代をかけて勝訴判決を勝ち取っても、手元に残るのは「紙切れ一枚(判決書)」だけ。
いわゆる**「費用倒れ」**になってしまいます。
だからこそ、訴状を書く前に「どこから回収するか」「回収可能性はあるのか」という出口戦略を立てておく必要があるのです。
2. 強制執行のターゲット(財産)と判断ポイント
では、具体的に相手のどのような情報を掴んでおけば、「回収の見込みあり」と判断できるのでしょうか。 強制執行の主なターゲットは以下の4つです。
【強制執行の主なターゲット】

① 預貯金(銀行口座):銀行名と支店名
最も確実で、現金化が早い財産です。
② 給与の支払先(お勤め先)
相手が会社員や公務員の場合、給料の差し押さえは非常に強力です。

個人事業主の場合には、主な報酬の支払元を把握する必要があります。
③ 不動産(土地・建物)
金額は大きいですが、ハードルも高い財産です。(差押えには多額の担保金が必要)
④ 売掛金(相手が事業者の場合)
相手が会社や自営業の場合、取引先から入ってくるお金を差し押さえます。
⑤ 高価な腕時計・ブランド品(動産)
相手が所有する腕時計やブランド品を差押えを差し押さえます。
3. 「勝ってから考える」では遅い理由
「とりあえず裁判をして、勝ったら財産調査をしよう」 これは非常に危険な賭けです。理由は2つあります。
- 財産隠しのリスク
裁判が始まると、相手は「負けたら差し押さえられる」と警戒します。判決が出るまでの数ヶ月〜1年の間に、預金を解約したり、名義を変えたりして財産を隠されるリスクがあります。 - 投資対効果(コスパ)の判断
「回収可能性が低い」と分かっていれば、「裁判をしない」あるいは「減額してでも早期和解する」という選択肢が取れます。
これを知らずに時間と労力をかけて裁判をするのは、経済的合理性がありません。
4. 奥の手「仮差押え(かりさしおさえ)」
もし、「相手には財産があるが、裁判中に隠されるかもしれない」という場合は、訴訟提起と同時に(あるいは先行して)**「仮差押え」**という手続きを行います。
これは、判決が出る前に相手の資産をロックしてしまう強力な手続きです。
「仮差押え」が成功すれば、相手は資金が動かせなくなるため、慌てて「支払うから解除してほしい」と和解を持ちかけてくることもあります。
まとめ:戦う前に「敵(資産)」を知る
訴訟は、正義の実現であると同時に、経済的な活動でもあります。 当事務所では、ご相談の段階で「勝てる見込み」だけでなく、**「実際に回収できる見込み」**についてもシビアに見通しをお伝えしています。

提訴する前の段階で回収可能性の見込みがなくても勿論訴訟を行う意味はあります。
・時効の中断
・財産開示手続の利用など
ただ、提訴する前に本記事で紹介した各リスクについては事前に把握しておくことが重要です。



