裁判で勝訴判決を得たり、相手方と和解が成立したりしても、相手が約束通りにお金を支払ってくれない――。
残念ながら、こうしたトラブルは少なくありません。
そのような場合に、国(裁判所)の力を借りて、相手の財産から強制的に回収する手続きが**「強制執行(きょうせいしっこう)」**です。
今回は、強制執行の基礎知識、種類、具体的な手順、そして実務上最も重要となる「財産調査」について解説します。
1. 強制執行とは?
強制執行とは、債務者(お金を借りている人など)が任意に支払いをしない場合に、債権者(お金を貸している人など)の申立てにより、裁判所が強制的に債務者の財産を差し押さえ、換金して、債権者に分配する手続きのことです。
日本では「自力救済の禁止」という原則があり、いくら権利があっても、無理やり相手の財布からお金を奪ったり、家に押し入って物を持ち出したりすることは犯罪になります。そのため、必ず裁判所を通した法的手続きが必要です。
強制執行をするための大前提「債務名義」
「相手が借用書を書いたのに返さない」という事実だけでは、すぐに強制執行はできません。
強制執行を行うには、**「債務名義(さいむめいぎ)」**と呼ばれる公的な文書が必要です。
【主な債務名義の種類】
- 確定判決: 裁判で勝訴し、確定したもの。
- 仮執行宣言付判決: 控訴されていても、とりあえず執行して良いという宣言がついた判決。
- 和解調書・調停調書: 裁判所での話し合いで合意した文書。
- 執行証書(強制執行認諾文言付公正証書): 公証役場で作成し、「支払わない場合は強制執行を受けても構わない」という文言が入った公正証書。
ポイント:
公正証書を作成しておけば、裁判を起こさずにいきなり強制執行の手続きに入ることができます。これが公正証書の大きなメリットです。
2. 何を差し押さえる? 強制執行の3つの種類
強制執行は、ターゲットとなる財産の種類によって手続きが異なります。
| 種類 | 対象となる財産 | 特徴 |
| 債権執行 | 預貯金、給与、売掛金など | 最も利用される手続き。 手続きが比較的早く、費用も安め。 |
| 不動産執行 | 土地、建物、マンションなど | 回収額は大きいが、予納金(数十万円~)が高額で、時間も半年以上かかる。 |
| 動産執行 | 現金、宝石、家財道具など | 執行官が現地に行く。換価価値のある物が少ないことが多く、心理的圧迫の意味合いが強い。 |
実務で最も多いのは「債権執行」
一般的に、まずは銀行口座(預貯金)や給与の差し押さえを検討します。
- 預貯金: 差し押さえた瞬間の残高から回収できます。
- 給与: 手取り額の4分の1(条件により上限あり)を、完済まで毎月天引きできます。
3. 強制執行の流れ
一般的なフローは以下の通りです。
- 債務名義の取得(判決や公正証書の準備)
- 執行文の付与・送達証明書の取得(「執行しても良い」というお墨付きと、相手に文書が届いた証明をもらう)
- 財産調査(相手にどの銀行の口座があるか、どこに勤めているかを調べる)
- 裁判所へ申立て(地方裁判所の執行係へ)
- 差押命令の送達(裁判所から銀行や勤務先へ通知が届く)
- 取立・配当(債権者が直接取り立てる、または配当を受ける)
4. 最大の難関は「財産調査」
強制執行の申立て書には、「どの財産を差し押さえるか」を債権者側が特定して記載しなければなりません。
裁判所が勝手に相手の財産を探してくれるわけではないのです。
- ×「相手の持っている口座全部」
- ○「A銀行 B支店の 普通預金口座」
このようにピンポイントで特定する必要があります。相手の財産が分からない場合、ここで手詰まりになるケースが多々あります。
近年の法改正で使いやすくなった「財産開示手続」など
以前は探偵を使うなどハードルが高かったのですが、民事執行法の改正により、裁判所を通じた調査がしやすくなりました。
- 財産開示手続: 債務者を裁判所に呼び出し、財産状況を陳述させる(嘘をついたり欠席したりすると刑事罰あり)。
- 第三者からの情報取得手続: 裁判所を通じて、銀行本店や市町村、年金機構などに照会し、口座情報や勤務先情報を取得する。
5. 強制執行の注意点(空振りのリスク)
ご依頼いただく前に必ずお伝えしているのが**「空振り(からぶり)」のリスク**です。
- 銀行口座を差し押さえたが、残高が数百円しかなかった。
- 勤務先を特定したが、すでに退職していた。
- そもそも相手にめぼしい財産が全くない。
このような場合、費用(印紙代や郵券代、弁護士費用)が回収額を上回り、赤字になる可能性があります。
「相手に支払い能力があるか」「財産を隠していないか」を見極めることが、強制執行を成功させる鍵となります。
まとめ:泣き寝入りする前に弁護士へ相談を
強制執行は、強力な権利実現の手段ですが、手続きが複雑で、かつスピード勝負(相手が財産を隠す前に行う必要がある)な側面があります。
- 判決を取ったけれど支払われない
- 公正証書に基づいて回収したい
- 相手の財産がどこにあるかわからない

